気持ちが沈んでいる日に、「前向きになろう」と言われても、すぐには切り替えられないことがあります。仕事で思うようにいかなかった日もあれば、特に大きな理由はないのに、何となく心が重い日もあります。
そんなときの「元気」は、急に明るくなることではありません。見方が一つ増えること。今日を全部だめだったと決めつけないこと。休む、誰かに話す、できることを一つだけ始める――そのどれかを選べる余白が戻ることも、十分な回復です。
この記事では、ソロー、エミリー・ディキンソン、エピクテトス、エマーソン、『道徳経』、マルクス・アウレリウスの6つの言葉を紹介します。外国語の日本語訳は、原文をもとにした当サイト訳です。原典の意味と、現代の生活への応用は分けて解説します。
落ち込んだ自分を、すぐに否定しないための名言
1.今の暮らし全部を「だめ」と決めない――ソロー
たとえ暮らしがどれほど貧しく見えても、それに向き合い、生きなさい。それを避け、ひどいものだと呼んではいけない。
However mean your life is, meet it and live it; do not shun it and call it hard names.
出典:Henry David Thoreau, Walden, “Conclusion”/当サイト訳。Project Gutenberg原文
この一文の直後でソローは、貧しい暮らしの中にも心を動かされる時間がありうること、夕日は救貧院の窓にも裕福な家の窓にも映ることを書いています。苦しい状況を「気の持ちよう」で消そうとしているのではなく、暮らしの中に残っているものまで一緒に見失わないよう促しています。
落ち込んでいるときは、一つの失敗から一日全体へ、一日から自分全体へと評価が広がりやすいものです。「仕事で間違えた」が「今日は最悪だ」になり、さらに「自分は何をやってもうまくいかない」まで進んでしまうことがあります。
嫌だったことを無理に良かったことへ変える必要はありません。ただ、今日の全部を一つの出来事だけで決めなくてよいのです。うまくいかなかったことは一つの事実として扱い、それ以外の時間も残しておく。その余白が、心を立て直す場所になります。
ソローの暮らしと自由についての言葉は、ソローの名言集でも紹介しています。
2.希望は、大きな決意でなくても残っている――エミリー・ディキンソン
「希望」とは羽を持つもの――心の中にとまっている。
“Hope” is the thing with feathers —
That perches in the soul —出典:Emily Dickinson, “Hope” is the thing with feathers (254), 第1連冒頭/当サイト訳。Academy of American Poets掲載本文
ディキンソンは、希望を心の中にとまる鳥として描きます。詩の中でその鳥は、嵐の中でも歌い、寒い土地や見知らぬ海でも消えません。そして最後まで、何かを要求することもありません。
この比喩のよいところは、希望を「絶対に成功すると信じる強さ」にしていない点です。落ち込んだ日に「明日から人生を変える」と思えなくても、もう少し眠れば少し楽になるかもしれない、誰かに話してみようかな、明日は今日と違うかもしれない――それくらいの感覚も希望です。
元気がないときほど、希望まで立派にしなくてよいのだと思います。完全に諦めていないものが一つある。それだけでも、心の中の小さな鳥はまだそこにいます。
見え方を少し変えたいときの名言
3.出来事と、自分の判断をいったん分ける――エピクテトス
人を動揺させるのは出来事そのものではなく、その出来事についての判断である。
Ταράσσει τοὺς ἀνθρώπους οὐ τὰ πράγματα, ἀλλὰ τὰ περὶ τῶν πραγμάτων δόγματα.
出典:エピクテトス『エンケイリディオン』5.1/当サイト訳。Dickinson College Commentaries校注本文
ここで使われる「ドグマタ」は、物事についての意見・評価・判断を指します。エピクテトスは、出来事と、それに対して自分が加えている評価を区別しようとしています。
もちろん、つらい出来事そのものがなくなるわけではありません。失敗は失敗ですし、誰かの言葉で傷つくこともあります。この言葉を「苦しいのは全部あなたの考え方のせいだ」と読めば、かえって自分を責める材料になってしまいます。
日常で役立つのは、事実のあとに何を付け足したかを見る使い方です。仕事で一つ間違えた。ここまでは事実です。そこから「また失敗した」「向いていない」「周りも呆れている」と判断が連続しているなら、その全部が確定した事実なのかを一度分けてみる。修正、謝罪、再確認など、事実に合った対応は、気持ちが完全に晴れる前から選べます。
エピクテトスの考え方を深めたい方は、エピクテトスの名言集も参考になります。
4.今日を、朝の失敗だけで終わった日にしない――エマーソン
毎日が一年でいちばんよい日だと、心に刻みなさい。
Write it on your heart that every day is the best day in the year.
出典:Ralph Waldo Emerson, Society and Solitude, “Works and Days”/当サイト訳。Project Gutenberg原文
この一文の直前で、エマーソンは「現在の一時間が決定的な時間ではないと思うこと」を一種の錯覚として論じています。その流れに置くと、「何が起きても最高だと思い込め」という強制的な楽観よりも、今という時間の価値を見落とすな、という響きが強くなります。
朝に失敗すると、「今日はもうだめだ」と一日を早々に閉じたくなることがあります。しかし、一日はまだ途中です。午前中に落ち込んでも、昼食のあとには別の時間があります。夕方に疲れ切っていたら、無理に挽回するのではなく、早く休むこともできます。
「最高の日」という表現を無理に肯定文へ置き換える必要はありません。今日には、まだ使っていない時間が残っている。そう考えるだけでも、一日の見え方は少し広がります。
エマーソンの別の言葉は、エマーソンの名言集で読めます。
もう一度動き出したいときの名言
5.遠くを見すぎたら、足もとへ戻る――『道徳経』
千里の旅も、足もとから始まる。
千里之行,始於足下。
出典:『道徳経』第64章/当サイト訳。中国哲学書電子化計画/Web漢文大系
この一文の前には、大木もごく小さな芽から育ち、高い台も土を積むところから始まる、という比喩が並びます。一方、すぐ後には「為す者はこれを敗り、執る者はこれを失う」と続き、強引に物事を支配しようとする姿勢や結果への執着が戒められます。
そのため、この章を単純な「とにかく頑張れ」という根性論にするのは適切ではありません。むしろ、大きな結果を力ずくでつかもうとせず、いま足もとにあるところから始める、という読み方が自然です。
元気が出ない日に、部屋全部を片づけるのは重い。机の上のコップ一つを戻すならできるかもしれません。仕事を完成させると思うと動けなくても、ファイルを開き、次の一項目だけ確認することはできます。千里先まで今日歩く必要はなく、足もとの一歩も旅の一部です。
老子の考え方は、老子の名言集でも紹介しています。
6.やる気がない朝にも、人は役割へ戻れる――マルクス・アウレリウス
朝、起きるのが億劫なときは、「私は人間としての仕事をするために起きるのだ」と心に用意しておきなさい。
Ὄρθρου, ὅταν δυσόκνως ἐξεγείρῃ, πρόχειρον ἔστω ὅτι ἐπὶ ἀνθρώπου ἔργον ἐγείρομαι.
出典:マルクス・アウレリウス『自省録』5.1/当サイト訳。ギリシア語Wikisource本文
この章句は、朝起きるのがおっくうな自分自身に語りかける文章です。マルクスは、植物や鳥、蟻、蜘蛛、蜂がそれぞれの働きをしていることを挙げ、人間も人間としての営みへ向かうのだ、と自分に言い聞かせています。
ただし、同じ5.1の中には「休息も必要だ」という反論も置かれ、マルクス自身がそれを認めています。ですから、この言葉を「眠くても休まず働け」と読むのは一面的です。論点は休息の否定ではなく、快適さだけを理由に、自分が大切だと考えている営みからいつまでも離れ続けることへの自戒です。
疲れているなら休む。十分に休んだのに、何となく始めたくないのなら、気分が変わるのを待たずに今日の役割を一つ思い出す。メールを一本返す、家を出る、誰かに挨拶する。やる気がいつも行動より先に来るとは限りません。
マルクス・アウレリウスの『自省録』の言葉は、マルクス・アウレリウスの名言集でも読めます。
元気が出ない日に、名言をどう使えばよいか
名言を読んだからといって、気持ちがすぐ晴れるとは限りません。「この言葉を読んだのに元気になれない」と採点し始めると、かえって負担が一つ増えてしまいます。
名言は、自分を奮い立たせる命令ではなく、今とは別の見方を一つ借りるもの、と考えるくらいでよいでしょう。ソローのように、今日全部を否定しない。ディキンソンのように、小さな希望を残す。エピクテトスのように、事実と判断を分ける。エマーソンのように、一日を途中で終わったことにしない。老子のように足もとを見る。マルクス・アウレリウスのように、休むべきときは休み、動くときには役割へ戻る。
六つの言葉は、同じことを言っているわけではありません。だから、その日の自分に合う一つだけを持ち帰れば十分です。
まとめ|元気が出るとは、また生活に参加できること
前向きであることを、いつも明るく、強く、迷わない状態だと考えると疲れてしまいます。気分が沈む日も、何もしたくない時間もあります。
そんな日は、昨日までの自分へ急いで戻ろうとしなくてもかまいません。今日の状態から始める。できそうなら一つ動く。疲れているなら休む。誰かの力が必要なら頼る。気分転換が必要なら一度仕事から離れる。
元気が出るとは、完全に立ち直ることではなく、もう一度いまの生活に参加できることなのかもしれません。この記事の中で一つだけ言葉が残ったなら、それを今日のために使ってみてください。
ほかの悩みや場面から言葉を探したい方は、テーマ・悩みから名言を探すもご覧ください。
出典・参考文献
- Henry David Thoreau, Walden, “Conclusion”. Project Gutenberg
- Emily Dickinson, “Hope” is the thing with feathers (254). Academy of American Poets
- Epictetus, Encheiridion 5.1. Dickinson College Commentaries
- Ralph Waldo Emerson, Society and Solitude, “Works and Days”. Project Gutenberg
- 『道徳経』第64章。中国哲学書電子化計画/Web漢文大系
- Marcus Aurelius, Τὰ εἰς ἑαυτόν 5.1. ギリシア語Wikisource
外国語の日本語引用は、原文をもとにした当サイト訳です。引用後の生活場面や取り入れ方は、原典そのものではなく当サイトによる解説・応用です。

