非攻・節用・正義を貫く墨子の名言
21. 小さな盗みを非難するなら、大きな侵略も同じ基準で見る
If one person enters another’s orchard and steals peaches and plums, the public condemns it, and those who govern punish it.
一人が他人の果樹園へ入り桃や李を盗めば、人々は非難し、為政者は捕らえて罰する。
出典:『墨子』非攻上篇「今有一人,入人園圃,竊其桃李,眾聞則非之,上為政者得則罰之。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
墨子は、小さな盗みを悪とする人が、国家による大規模な侵略を称賛する矛盾を問い詰めます。規模や立場が変わっても、同じ倫理基準を適用できるかという問題です。
自分に有利なときだけ基準を変えていないか、一度振り返る。正義は、相手によって物差しを替えないところから始まります。
22. 犠牲が増えるほど、不義も重くなる
To kill one person is called unrighteous and incurs one capital crime; by the same reasoning, killing ten persons is ten times the unrighteousness.
一人を殺せば不義と呼ばれ、一つの死罪に当たる。同じ理屈なら、十人を殺すことは十倍の不義である。
出典:『墨子』非攻上篇「殺一人謂之不義,必有一死罪矣;若以此說往,殺十人十重不義。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
被害の規模が大きくなると、政治や名誉の言葉によって責任が見えにくくなることがあります。墨子は単純な論理を使い、その矛盾を明らかにしました。
数字が大きい問題ほど抽象化せず、一人の生活へ置き換えて考える。被害を具体的に見ることが、判断の感覚を取り戻します。
23. 国を攻める大きな不義だけを、正義と呼んではならない
When people reach the great unrighteousness of attacking a state, they fail to condemn it and instead praise it as righteous.
国を攻めるという大きな不義に至ると、それを非難せず、かえって称賛して正義と呼ぶ。
出典:『墨子』非攻上篇「今至大為不義攻國,則弗知非,從而譽之,謂之義。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
集団の熱狂や権威ある言葉は、個人なら悪いと分かる行為を正しく見せることがあります。だからこそ、行為そのものと、それを飾る名称を分ける必要があります。
強い言葉に動かされたときは、「実際に誰が何を失うのか」を一つ確認する。名前ではなく結果を見る習慣が、判断を守ります。
24. 役に立たない費用を除けば、使える力は増える
Remove expenditures that serve no useful purpose, and available resources can be doubled.
役に立たない費用を取り除けば、使える資源を倍にできる。
出典:『墨子』節用上篇「去其無用之費,足以倍之。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
節約は、ただ我慢することではありません。価値を生まない支出を減らし、本当に必要なところへ資源を移す設計です。
今日の固定費や作業手順から、使っていないものを一つ探す。増やす前に無駄を減らすと、時間とお金の余白が戻ります。
25. 人々の生活を支えない追加費用は、増やさない
When people’s needs are sufficiently supplied, stop there. A wise ruler does not add expenses that add no benefit to the people.
民の生活を十分に支えられるなら、そこで止める。民の利益を増やさない追加費用を、聖王は行わない。
出典:『墨子』節用中篇「凡足以奉給民用,則止。諸加費不加于民利者,聖王弗為。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
高価で豪華であることと、暮らしに役立つことは同じではありません。墨子は、費用の正当性を人々の利益によって判断しました。
買うか迷ったときは、「何が改善するのか」を一文で答えてみる。答えが曖昧なら、今日は買わずに保留するだけでも十分です。
判断・運命・実践を考える墨子の名言
26. 意見には、根拠・確かめ方・実際の効果が必要である
A standard must be established. Without a standard, right and wrong, benefit and harm cannot be clearly known. Therefore every claim must have three tests: a basis, verification, and application.
基準を立てなければならない。基準なしに語れば、是非と利害を明らかにできない。だから言説には、根拠・検証・実用という三つの基準が必要である。
出典:『墨子』非命上篇「必立儀。言而毋儀,是非利害之辨,不可得而明知也。故言必有三表:有本之者,有原之者,有用之者。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
墨子の「三表」は、主張を権威だけで信じず、過去の事例、実際の観察、社会での効果から確かめる方法です。情報が多い時代にも通じる実証的な姿勢があります。
気になる情報を見たら、出典・観察できる事実・実際の効果を一つずつ確認する。すぐ拡散せず立ち止まることも、立派な行動です。
27. 豊かさと秩序を望むなら、何も変えられないという考えを退ける
If people sincerely desire the world to be rich rather than poor, and orderly rather than chaotic, they cannot leave fatalistic doctrine unchallenged; it is a great harm to the world.
本当に天下の豊かさを望み、貧しさを嫌い、秩序を望み、乱れを嫌うなら、運命ですべてが決まるという説を退けなければならない。それは天下の大きな害である。
出典:『墨子』非命上篇「忠實欲天下之富而惡其貧,欲天下之治而惡其亂,執有命者之言,不可不非,此天下之大害也。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
墨子が批判したのは、運命への信仰そのものより、「どうせ決まっている」と行動を放棄する態度です。変えられないものがあっても、改善できる領域まで手放す必要はありません。
結果を保証できなくても、今日できる一手は選べます。連絡を一件送る、資料を一行直すという行動へ戻ってみてください。
28. 時代も民も同じでも、指導者と行動によって結果は変わる
The times had not changed and the people had not altered; yet under Jie and Zhou the world was chaotic, while under Tang and Wu it was orderly. How can this be called fixed fate?
時代も民も変わっていないのに、桀・紂のもとでは天下が乱れ、湯・武のもとでは治まった。これを固定された運命と言えるだろうか。
出典:『墨子』非命上篇「此世未易民未渝,在於桀紂,則天下亂;在於湯武,則天下治,豈可謂有命哉!」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
同じ条件でも、判断と制度と行動によって結果は変わります。環境の制約を認めながらも、人間の働きかけを無意味にしないのが墨子の現実主義です。
「条件が悪いから無理」と感じたら、変えられる部分を一つだけ囲む。コントロールの二分法で、自分の側にある選択へ戻れます。
29. あらゆる物事の中で、正義より尊いものはない
Among all affairs, nothing is more valuable than righteousness.
あらゆる物事の中で、正義より尊いものはない。
出典:『墨子』貴義篇「萬事莫貴於義。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
利益や評判が大きくても、不正によって得るなら長くは支えられません。墨子にとって義は抽象的な美徳ではなく、人々の利益を守り害を減らす実践基準でした。
迷う場面では、「得をするか」だけでなく「誰かに不当な害を与えないか」を加える。判断軸を一つ増やすだけで、選択の質は変わります。
30. 少数を殺さない義を語りながら、多数を殺す戦争を許してはならない
To destroy what is scarce in order to contend for what is already abundant cannot be called wise; to attack an innocent state cannot be called humane. A principle that refuses to kill a few yet permits the killing of many cannot be called understanding what is right.
不足している民を殺し、余っている土地を争うことは知恵とは言えない。罪のない宋を攻めることは仁とは言えない。少数を殺さないという義を掲げながら、多数を殺すことは道理を知るとは言えない。
出典:『墨子』公輸篇「殺所不足,而爭所有餘,不可謂智。宋無罪而攻之,不可謂仁。義不殺少而殺眾,不可謂知類。」(英訳・日本語訳ともに筆者訳)
墨子は公輸盤の矛盾を、相手自身が掲げる倫理から明らかにしました。理念を語るなら、個人にも国家にも同じ基準を適用しなければなりません。
正しさを主張するときほど、自分にも同じ物差しを当ててみる。その一度の点検が、独善を避け、言葉と行動を一致させます。
墨子をさらに深く読むための関連書籍
広告|本記事にはAmazonアソシエイトリンクを含みます。
兼愛と非攻の議論を『墨子』の本文から確かめる
『墨子』は、格言だけでなく具体的な反論や社会制度の提案まで含む古典です。正義、平和、組織、人間関係を自分の生活へ引き寄せて考える入口として利用できます。
まとめ:墨子の名言は、正しさを現実の利益へ変える言葉
墨子の思想は、正義を立派な言葉のままにしません。誰が利益を受け、誰が害を受けるのかを確かめ、侵略や差別、無駄を減らす具体的な行動へ落とし込みます。
自分だけを守ろうとするほど、関係や社会の争いは増えやすくなります。相手の立場を一度想像し、同じ倫理基準を自分にも相手にも当てる。その小さな公平さが、兼愛の実践です。
この30の言葉から一つだけ選び、今日の判断へ使ってみてください。大きな改革でなくても、無駄を一つ減らす、相手の負担を一つ軽くする、正しいと思うことを一分だけ始める。その行動が、現実を一ミリ善くします。ほかの思想も読みたい方は、思想・哲学から名言を探すページや名言を探す総合ページも利用できます。
出典・参考文献
参考:中国哲学書電子化計画(Chinese Text Project)『墨子』修身・所染・法儀・七患・尚賢上・兼愛上・兼愛中・非攻上・節用上・節用中・非命上・貴義・公輸、Stanford Encyclopedia of Philosophy “Mohism”。本文の英訳・日本語訳は、伝世本文を参照した筆者訳です。

