観察と無刀の実践
観察と無刀は、目の前の手段へ固執せず、目的に応じて全体を見る教えです。軍学の伝承を読む際は、山本勘助の言葉や武田信玄の言葉との違いも手がかりになります。
21. 心で見ることを根本にする
Seeing with the mind is fundamental; only from the mind can the eyes be properly directed.
心にて見る事を根本とす、心から見てこそ目も付べき物なれ
出典:柳生宗矩『兵法家伝書』「活人剣」(福井久蔵編『秘籍大名文庫 第2』厚生閣、1937年、国立国会図書館デジタルコレクション、コマ28。英訳は当サイト)
何を見るかは、目的によって変わります。目を忙しく動かす前に、何を知る必要があるかを定めることで、情報の選び方が整います。
調査を始める前に質問を一文で書くと、不要な情報へ流されにくくなります。
22. 心は水の月、形は鏡の影
The mind is like the moon in water; form is like an image in a mirror.
心似水中月、形如鏡上影
出典:柳生宗矩『兵法家伝書』「活人剣」(福井久蔵編『秘籍大名文庫 第2』厚生閣、1937年、国立国会図書館デジタルコレクション、コマ28。英訳は当サイト)
水面の月や鏡の影は、対象に応じて現れながら跡を残しません。宗矩は、状況へ応じつつ固着しない心身の働きをこの比喩で示します。
終わった出来事を何度も再演しそうなときは、学びを一行残し、残りは次の行動へ渡すのが実践になります。
23. 心が止まると見るべき所を外す
When the mind attaches and stops in one place, it misses what should be seen and suffers an unexpected defeat.
心が一所に着しとゞまれば、見る所を見はづし、思の外に負を取る也
出典:柳生宗矩『兵法家伝書』「活人剣」(福井久蔵編『秘籍大名文庫 第2』厚生閣、1937年、国立国会図書館デジタルコレクション、コマ30。英訳は当サイト)
一つの予想に固執すると、予想と異なる兆候を見落とします。敗因は情報不足より、見たいものだけを見ることにある場合があります。
判断前に「反対の証拠は何か」を一度だけ確認すると、思い込みを弱められます。
24. 奪わなくても切られなければ勝ち
Even without taking the sword, preventing the cut is victory; take this as the true aim.
若し又必ずとらずとも、おさへてきられぬが勝也、此心持を本意と思ふべし
出典:柳生宗矩『兵法家伝書』「無刀之巻」(福井久蔵編『秘籍大名文庫 第2』厚生閣、1937年、国立国会図書館デジタルコレクション、コマ34。英訳は当サイト)
勝利を派手な制圧や奪取に限定しない考えです。目的が身を守ることなら、相手の武器を奪わなくても危害を防げれば十分です。
対立場面でも、相手を屈服させることと、自分が守るべきものを守ることは別の目標です。
25. 無刀は技を誇るためではない
No-sword does not mean that one must seize another’s sword, nor is it for displaying the feat as an honor.
無刀とて、必しも人の刀をとらずしてかなはぬと云ふ儀にあらず、又刀取て見せて是を名譽にせんにてもなし
出典:柳生宗矩『兵法家伝書』「無刀之巻」(福井久蔵編『秘籍大名文庫 第2』厚生閣、1937年、国立国会図書館デジタルコレクション、コマ34。英訳は当サイト)
無刀は見せ物の技巧ではなく、武器がない状況でも生き延び、目的を果たすための原理です。手段への執着を捨てることで、別の道具や距離、退避も選択肢になります。
使い慣れた方法が使えないときは、目的を言い直し、手元にある資源を三つ挙げると代替策が見つかりやすくなります。
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柳生宗矩と『兵法家伝書』をさらに読む
宗矩の思想は、個々の名言だけでなく「殺人刀」「活人剣」「無刀之巻」の流れで読むと理解が深まります。
まとめ
柳生宗矩の言葉に共通するのは、力を加え続けることより、心を一か所に止めず、状況へ応じて働ける状態を保つことです。平常心は無感情ではなく、見る、選ぶ、動くという機能を損なわない心でした。
「無刀」も、刀を奪う派手な技の誇示ではありません。目的を見失わず、手段への執着を離れ、必要なら争わずに危害を防ぐ考えです。今の仕事や人間関係でも、勝ち方を一つに決めつけない柔軟さとして生かせます。
出典・参考文献
- 柳生宗矩『兵法家伝書』「殺人刀」、福井久蔵編『秘籍大名文庫 第2』、厚生閣、1937年、国立国会図書館デジタルコレクション。
- 柳生宗矩『兵法家伝書』「活人剣」、同書。
- 柳生宗矩『兵法家伝書』「無刀之巻」、同書。
- 国立国会図書館サーチ書誌情報:『秘籍大名文庫 第2』。永続的識別子 info:ndljp/pid/1074542、DOI 10.11501/1074542。
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