信頼される大将の条件
21. 古参を侮ることは主君を軽んじること
When a newcomer despises hereditary retainers, he is not merely despising his peers; he is diminishing the lord who has relied on them.
新参の者が譜代の者を侮るのは、仲間を侮るだけでなく、その者たちを用いてきた大将を軽んじることになる。
出典:『甲陽軍鑑』品第二十四「山本勘介工夫」(山本勘助の発言として記録。現代語訳・英訳は当サイト)
過去のやり方をすべて否定すると、それを支えてきた人の誇りだけでなく、組織の判断そのものを傷つけます。改善には、以前の制約を理解する姿勢が必要です。
変更提案には「以前の方法が必要だった理由」を一文加えてください。尊重がある提案は受け入れられやすくなります。
22. 土地を知る旧臣を呼び戻す
Recall the local commander who has gone into exile, restore his former place, and his knowledge and relationships will open the country.
その国から流浪した侍大将が生きているなら呼び戻し、旧領へ復帰させるべきである。土地と旧友を知る者は、国を開く助けになる。
出典:『甲陽軍鑑』品第二十四「山本勘介工夫」(山本勘助の発言として記録。現代語訳・英訳は当サイト)
一度組織を離れた人でも、経験、関係、土地勘を持っています。感情だけで切り捨てず、目的に合うなら再び力を借りる柔軟さが必要です。
真田幸村の名言に見られる不確実な時代の判断と同じく、過去の所属より、今どんな役割を果たせるかを見る視点が重要です。
23. 一枚だけの分別で人を切らない
To kill or expel every local retainer and divide the land only among one’s old followers is shallow, one-layered judgment.
取った国の侍をすべて討つか追い払い、譜代だけで知行を分けるのは、先の工夫がない一枚きりの悪い分別である。
出典:『甲陽軍鑑』品第三十「山本勘介申上条々」(山本勘助の発言として記録。現代語訳・英訳は当サイト)
短期的には敵を排除したように見えても、知識、技能、協力者まで失えば、後の統治が弱くなります。勘助は、目先の支配だけを見る判断を戒めています。
人を外す判断では、現在の問題だけでなく、失われる知識と代替手段を確認してください。
24. 国を持つ者には慈悲が必要である
A lord who governs a country must show compassion; without it, disorder soon follows.
国持大将は、慈悲をかけなければならない。慈悲を欠けば、やがて悪事が起こる。
出典:『甲陽軍鑑』品第三十「山本勘介申上条々」(山本勘助の発言として記録。現代語訳・英訳は当サイト)
ここでの慈悲は、何でも許す甘さではありません。支配される側の生活や尊厳を考え、必要以上に奪わない統治の原則です。
決定によって負担を受ける人を一人思い浮かべ、軽減できる手間を一つ探してください。
25. 名将は見た目より技量を見る
A great commander is not swayed by appearance or social reputation; he honors those who possess strategy, intelligence, and the skills of service.
名将は、人の取りなしや男ぶりに構わず、武略と智略を備えた侍を第一に遇し、尊重するものである。
出典:『甲陽軍鑑』品第二十六「山本勘介駿河へ行く事」(山本勘助の発言として記録。現代語訳・英訳は当サイト)
勘助は、自分の容姿や身体的特徴ではなく、技量を見て用いた晴信を名将と評価しました。人材を見る基準を、印象から仕事へ戻す言葉です。
斎藤道三の名言でも、判断と家中統治が重要なテーマです。次に人を評価するときは、好き嫌いではなく「任せた役割で何を成し遂げたか」を一つ確認してください。
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山本勘助の史実・伝承・軍略をさらに読む
山本勘助については、実在を示す文書研究と、『甲陽軍鑑』が伝える軍師像を分けて読むことが大切です。購入前に目次、著者、出版情報を確認し、目的に合う本を選んでください。
まとめ
『甲陽軍鑑』に描かれた山本勘助の知恵は、人数や勢いだけに頼らず、構造、配置、見切りによって力を生かす考えに貫かれています。良い城は少人数を強くし、悪い城は人数を無駄にするという言葉は、現在の仕事の仕組みにもそのまま当てはまります。
また、土地を治めるときには、旧来の人材をすべて排除せず、新参と古参の双方を尊重することを勧めています。勝つことより、勝った後に人が協力できる状態を作ることまで見ている点が、勘助の言葉の大きな特徴です。
まず実践するなら、いま進みにくい仕事について「人を増やす前に、構造を直せないか」と一度だけ問い直してみてください。現実を一ミリ良くする小さな設計変更が、最初の一歩になります。
出典・参考文献
- 高坂弾正著・山田弘道校『甲陽軍鑑』温故堂、1892~1893年(国立国会図書館デジタルコレクション書誌)
- 『甲陽軍鑑』品第二十四(Wikisource、温故堂本を底本とする翻刻)
- 『甲陽軍鑑』品第二十五(Wikisource、温故堂本を底本とする翻刻)
- 『甲陽軍鑑』品第二十六(Wikisource、温故堂本を底本とする翻刻)
- 『甲陽軍鑑』品第三十(Wikisource、温故堂本を底本とする翻刻)
- 山梨県「市河家文書」文化財解説
- 山梨県立博物館「信玄・謙信、そして伝説の軍師」展示案内
- 山梨県立図書館「甲州文庫を学ぶ・甲陽軍鑑」
※『甲陽軍鑑』は江戸時代初期に成立した軍書で、史実と一致しない記述や誇張を含むとされています。本記事は、同書に山本勘助の発言として記された内容を、伝承史料として紹介するものです。