名利と欲望に振り回されないための吉田兼好の名言
21. 名誉と利益に使われる人生は、静けさを失う
To be driven by fame and profit, with no quiet leisure, is to suffer through one’s whole life foolishly.
名利に使はれて靜かなる暇なく、一生を苦しむるこそ愚かなれ。
出典:吉田兼好『徒然草』第38段(英訳は筆者訳)
名誉や利益そのものが悪いのではありません。問題は、それらを得るために自分の時間と心がすべて使われてしまうことです。
忙しさが続くときは、「これは本当に自分が望んでいることか、それとも評価されるためだけか」と問い直してみてください。静かな時間を守ることも、人生の重要な仕事です。
22. 財産が増えるほど、守るための迷いも増える
The more wealth one has, the more troubled one becomes in protecting oneself; it buys harm and invites anxiety.
財多ければ身を守るにまどし。害を買ひ煩ひを招く媒なり。
出典:吉田兼好『徒然草』第38段(英訳は筆者訳)
所有は安心をもたらす一方で、失う不安や管理の負担も生みます。兼好は、富が自動的に自由を増やすわけではないことを見抜いていました。
物だけでなく、予定や役割も持ちすぎれば心を圧迫します。今週やらなくても困らない予定を一つ減らすと、余白が戻ってきます。
23. 満ちたものは欠け、盛んなものは衰える
What becomes full will wane, and what flourishes will decline. When anything reaches its extreme, it is already near collapse.
滿ちては缺け、物盛りにしては衰ふ。萬の事さきの詰りたるは、破れに近き道なり。
出典:吉田兼好『徒然草』第83段(英訳は筆者訳)
成功や勢いが永遠に続くと考えると、変化が起きたときに大きく揺さぶられます。兼好は、盛りの中にすでに衰えの兆しがあると見ました。
調子がよいときほど、無理に拡大し続けず、休息や備えを入れる。これは悲観ではなく、変化を前提にした穏やかな判断です。
24. 失敗は、難所を越えたあとの油断で起こる
Mistakes invariably occur when one has reached an easy place.
あやまちは安き所になりて、必ず仕ることに候。
出典:吉田兼好『徒然草』第109段(英訳は筆者訳)
危険な場面では人は慎重になります。ところが、もう大丈夫だと思った瞬間に注意が緩み、最後の確認を省きやすくなります。
送信前に宛先を一度見る、公開前に状態を再取得する、帰宅前に忘れ物を確認する。終わり際の十秒が、大きな失敗を防ぐことがあります。
25. 勝とうとするより、負けない打ち方を選ぶ
One should not play merely to win; one should play so as not to lose.
勝たむとうつべからず、負けじとうつべきなり。
出典:吉田兼好『徒然草』第110段(英訳は筆者訳)
大きく勝とうとすると、必要以上の賭けに出やすくなります。兼好が双六の名人から聞いたこの言葉は、長期的な判断にも通じます。
仕事やお金では、最大の成果より、致命的な損失を避ける設計が大切です。今日は、失敗しても戻れる小さな単位で試してみるとよいでしょう。
学びと行動を一歩ずつ深める吉田兼好の名言
26. 心は、より賢い方向へ移していける
Why should the mind not be moved toward ever greater wisdom?
心はなどか、賢きより賢きにも、うつさば移らざらむ。
出典:吉田兼好『徒然草』第1段(英訳は筆者訳)
性格や考え方は固定されたものではありません。兼好は、心をより賢い方向へ移す可能性を信じています。
一度で別人になる必要はなく、昨日より一つよい判断を選べば十分です。学びは知識を増やすだけでなく、次の行動を少し変えることに意味があります。
27. 不器用でも、自分の手で書くほうがよい
It is good when a person with poor handwriting writes freely without embarrassment; having another write merely because one’s hand looks unsightly is troublesome.
手の惡き人の、憚らず文かきちらすはよし。見苦しとて人に書かするはうるさし。
出典:吉田兼好『徒然草』第35段(英訳は筆者訳)
上手さを気にしすぎると、自分の言葉を出せなくなります。兼好は、見栄えが悪くても臆せず書く姿に、自然な強さを見ました。
文章でも仕事でも、最初から整った形を求めなくてかまいません。まずは小さくラフに始め、あとから直す。自分の手で着手することが、上達の入口です。
28. 大事を成そうとするなら、執着をそのまま抱え込まない
A person resolved upon a great undertaking should cast aside even those attachments that seem impossible to abandon, rather than leave the purpose unfulfilled.
大事を思ひたたむ人は、さり難き心にかゝらむ事の本意を遂げずして、さながら捨つべきなり。
出典:吉田兼好『徒然草』第59段(英訳は筆者訳)
何かを選ぶことは、同時に別の何かを手放すことです。すべてを維持したまま大事を成そうとすると、時間も注意も分散します。
目標を一つ決めたら、そのために今週やらないことも一つ決めてみてください。優先順位は、増やすことより減らすことで明確になります。
29. 繰り返す行動は、やがてその人自身になる
If one imitates a madman by running along the highway, one is a madman; if one imitates an evil person by killing, one is evil.
狂人のまねとて大路を走らば、則ち狂人なり。惡人のまねとて人を殺さば、惡人なり。
出典:吉田兼好『徒然草』第85段(英訳は筆者訳)
行動を「まねにすぎない」と軽く考えることはできません。何を繰り返すかが、次第に習慣となり、自分のあり方を形づくります。
気分が整ってから善い行動をするのではなく、善い行動を一つ選ぶことで気分や自己認識が後からついてくる場合があります。今日の一分が、明日の自分をつくります。
30. 賢さは、まず賢い行いをまねることから始まる
One who imitates wisdom, even at first imperfectly, should be called wise.
僞りても賢をまなばむを賢といふべし。
出典:吉田兼好『徒然草』第85段(英訳は筆者訳)
最初から心の底まで立派でなくても、賢い人の行動をまねることには意味があります。形から始めた行動が、やがて考え方を育てることもあるからです。
落ち着いた人ならどう返信するか、誠実な人なら何を確認するか。そう問い、ひとつ実行してみる。完全な動機を待たずに善い形を選ぶことが、現実を一ミリよくします。
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まとめ|不完全な今を、そのまま生き始める
吉田兼好の30の言葉には、変わり続ける世界を嘆くだけでなく、その移ろいの中に美しさを見いだす視線があります。完全であること、長く持つこと、多く得ることだけが、人生の価値ではありません。
『徒然草』が繰り返し示すのは、心づかいは朝夕の小さな行動に表れ、時間は「只今」の一念として過ぎていくということです。考えすぎた日は、すべてを解決しようとせず、一行書く、一つ片づける、一分だけ始める。その程度からで十分でしょう。
欠けたままでも、途中でも、人生には続きがあります。今日の余白を恐れず、今できる一手を静かに置いてみてください。
出典・参考文献
参考:吉田兼好『徒然草』。本文確認には、国民図書刊『校註日本文學大系』収録本文および国立国会図書館の公開書誌・デジタル資料を参照しました。引用の旧字・歴史的仮名遣いは参照本文を基本としています。