結婚生活では、愛情があるだけで毎日が自然にうまくいくとは限りません。長く一緒にいるほど、考え方の違い、役割分担、変化、ひとりでいる時間など、二人で調整することが増えていきます。
ここでは、夫婦や結婚をめぐる6つの言葉を原典とともに紹介します。大切にしたいのは、相手を自分と同じにすることではなく、違う人間同士が対話し、尊重し、必要な距離を保ちながら一緒に生きることです。なお、暴力や威圧、継続的な支配に耐えることを結婚の美徳として扱うものではありません。
愛することそのものを考えたい方は愛の名言集、人との距離感全般については人間関係の名言集もあわせてご覧ください。
変化の中でも、関係を大切にする
1.シェイクスピア|変化する状況と、変えない姿勢
心と心が結ばれることを、妨げようとは思わない。変化を見つけて変わり、相手が離れようとすれば折れてしまうものは、愛ではない。
Let me not to the marriage of true minds
Admit impediments. Love is not love
Which alters when it alteration finds,
Or bends with the remover to remove.
出典:William Shakespeare, Sonnet 116(当サイト訳)
ソネット116でシェイクスピアは、時間や状況が変わっても簡単には揺らがない愛を描いています。夫婦生活に引きつけるなら、相手が年齢や仕事、体調、価値観の変化を経験したときに、「以前と同じでないから」と関係そのものをすぐに否定しない姿勢として読めます。
ただし、この詩の理想を「どんな関係でも離れてはいけない」という命令に変える必要はありません。暴力や深刻な支配があるなら、安全を守るために距離を取ることも重要です。変えないのは苦痛への服従ではなく、相手と自分の尊厳を大切にする姿勢だと考えると、現代の生活にもつながります。
2.カリール・ジブラン|一緒にいても、間をなくさない
けれど、一緒にいることの中にも空間を残しなさい。天の風が、二人のあいだで踊るように。
But let there be spaces in your togetherness,
And let the winds of the heavens dance between you.
出典:Kahlil Gibran, The Prophet, “On Marriage”(当サイト訳)
『預言者』の「結婚について」で、ジブランは「ともにいること」と「それぞれであること」を同時に語ります。同じ家に暮らし、生活を共有していても、すべての時間、趣味、考え方まで一つにする必要はありません。
一人で過ごす時間、別々の友人関係、それぞれの仕事や関心があるからこそ、再び向き合うときに新しいものを持ち寄れます。夫婦の近さは、境界を消すことではなく、安心して近づいたり離れたりできる余白を持つことでもあります。
対等な二人として暮らす
3.リルケ|愛は、二つの孤独を消すことではない
愛とは、二つの孤独が互いを守り、境界を保ち、挨拶を交わすことにある。
… der Liebe, die darin besteht, daß zwei Einsamkeiten einander schützen, grenzen und grüßen.
出典:Rainer Maria Rilke, Brief an Franz Xaver Kappus, 14. Mai 1904(ドイツ語原文・当サイト訳)
リルケはこの手紙で、愛を「相手に溶け込んで一つになること」としてではなく、二人の人間がそれぞれ成長する難しい仕事として考えています。「境界を保つ」という言葉が含まれているのが重要です。
結婚すると、予定、家計、家事など共有するものは増えます。それでも、相手の考えをすべて把握しようとしたり、同じ結論を強制したりする必要はありません。分からない部分が残ることを認め、「あなたはどう考えるのか」と聞けることも、長く続く対話の基礎になります。
4.J・S・ミル|支配と服従ではなく、平等の中で共に生きる
必要なのは、家庭が平等の中で共感を学ぶ場となり、一方が権力を握り、他方が服従することなく、愛のうちに共に生きる場となることである。
What is needed is, that it should be a school of sympathy in equality, of living together in love, without power on one side or obedience on the other.
出典:John Stuart Mill, The Subjection of Women, Chapter II(当サイト訳)
ミルがこの文章を書いた19世紀には、結婚制度の中で女性が法的・社会的に従属する状況がありました。彼はその前提そのものを批判し、家庭を「平等の中で共感を学ぶ場」として構想しています。
現代の夫婦でも、収入の多さ、家事の得意不得意、年齢などが、そのまま発言権の上下になるとは限りません。大切なのは、どちらかが常に命令し、もう一方が従う形ではなく、事情を説明し、相談し、合意できる点を探すことです。平等とは、何でも半分にすることより、相手の意思を同じ重さで扱うことに近いでしょう。
結婚の中でも、自分自身でいる
5.イプセン『人形の家』|「妻」や「夫」の前に、一人の人間である
何より先に、私はあなたと同じように、理性を持つ一人の人間だと思う。少なくとも、そうなろうと努めなければならない。
I believe that before all else I am a reasonable human being, just as you are—or, at all events, that I must try and become one.
出典:Henrik Ibsen, A Doll’s House, Act III(R. Farquharson Sharp英訳を参照し当サイト訳。ノラの台詞)
これはイプセン本人の発言ではなく、戯曲『人形の家』でノラが夫トルヴァルに語る台詞です。ノラは、自分が「妻」や「母」という役割だけで定義されてきたことを問い直します。
この場面を、夫婦げんかのたびに別れるべきだという意味に広げる必要はありません。むしろ、結婚しても一人の人間として考え、学び、選ぶ権利が残ることを思い出させます。役割を大切にしながらも、役割だけに自分を閉じ込めないこと。その余地があるほど、相手も同じ一人の人間として尊重しやすくなります。
同じ意見より、調和をつくる
6.ホメロス『オデュッセイア』|夫婦の「一致」は、考えを同じにすることではない
家と夫、そして調和を神々が授けてくださいますように。天からの贈り物の中で、夫婦のあいだの平和ほど尊いものはないと、私は思う。
And may the Gods thy largest wishes grant,
House, husband, concord! …
Of heav’n, more precious none I deem, than peace
’Twixt wedded pair…
出典:Homer, The Odyssey, Book VI(William Cowper英訳を参照し当サイト訳)
この箇所では、オデュッセウスがナウシカアに家庭と夫、そして夫婦の調和を願います。ここで引用した英語はホメロスの古代ギリシア語原文ではなく、ウィリアム・カウパーによる英訳です。
「調和」は、二人が何についても同じ意見を持つこととは限りません。生活では、使いたいお金、休み方、家族との付き合い方などで意見が違うこともあります。違いを隠すより、何を大切にしているのかを話し、折り合える方法を探す。その過程そのものが、二人で平和をつくることだと考えられます。
夫婦関係を整えるためにできること
夫婦の問題は、壮大な答えを一度で出そうとすると話しにくくなります。まずは「最近、負担に感じていることはある?」「一人で過ごしたい時間はどれくらい必要?」のように、一つの具体的な話題から始めるほうが現実的です。
意見がぶつかったときは、相手を説得する前に「私はこう感じている」「私はこうしてほしい」と自分の側から説明すると、人格への攻撃になりにくくなります。話しても安全が保てない関係では、二人だけで解決しようとせず、信頼できる第三者や専門窓口へ相談することも選択肢です。
家族という広い関係の中で考えたい場合は家族の名言集、交際中の期待や距離感については恋愛の名言集も参考になります。テーマ別の記事はテーマ・悩みから名言を探すから一覧できます。
まとめ|一緒に生きることと、自分でいることを両立する
夫婦・結婚についての6つの言葉に共通して見えてくるのは、長く一緒にいることと、互いを別の人間として尊重することは矛盾しないという点です。
変化しても関係を大切にすること。近くても余白を持つこと。支配ではなく平等を選ぶこと。役割の前に一人の人間として向き合うこと。そして、違いがある中で調和をつくること。夫婦関係は完成した状態ではなく、その都度調整していく共同生活でもあります。
今日すべてを解決する必要はありません。まず一つだけ、相手に聞いてみたいこと、伝えたいことを言葉にする。その小さな対話が、関係を少し整える一歩になります。
出典・参考文献
- William Shakespeare, The Sonnets, Sonnet 116 — Project Gutenberg
- Kahlil Gibran, The Prophet, “On Marriage” — Project Gutenberg
- Rainer Maria Rilke, Brief an Franz Xaver Kappus, 14. Mai 1904 — rilke.de
- John Stuart Mill, The Subjection of Women — Project Gutenberg
- Henrik Ibsen, A Doll’s House — Project Gutenberg
- Homer, The Odyssey, trans. William Cowper — Project Gutenberg
