スティーヴン・ホーキングは、ブラックホールと宇宙の始まりをめぐる理論研究を進める一方、複雑な科学を広い読者へ伝え続けた物理学者です。その言葉には、数式の向こうにある好奇心、発見の喜び、人類の未来への責任が表れています。
ここでは大学・放送局・NASA・WHOなどが公開した本人の講演や発言記録を中心に、出典を確認できる短い言葉を25個選びました。流通している有名句でも一次資料を確認できないものは除いています。
同じ宇宙を見つめた科学者の言葉として、カール・セーガンの名言も併せて読むと、科学と人類へのまなざしの違いが見えてきます。
希望と好奇心を失わない
1. 命があるかぎり希望は残る
Where there is life, there is hope.
命があるところには、希望がある。
出典:University of Cambridge, “Cambridge celebrates Stephen Hawking’s 75th birthday”
希望は、状況が楽観的だから生まれるものではありません。生きているという事実の中に、次の可能性がまだ残っているという認識です。
ホーキングの歩みは、制約を否定することより、制約の内側で研究と生活を続けることに力があると示します。
2. 一日を贈り物として受け取る
Every new day became a bonus.
新しい一日一日が、贈り物になった。
出典:University of Cambridge, “Cambridge celebrates Stephen Hawking’s 75th birthday”
期待が大きく崩れたとき、時間の見え方は変わります。遠い未来を当然のものとせず、今日という単位を受け取り直す言葉です。
これは無理に前向きになる勧めではありません。一日の価値を、予定の多さではなく、実際に経験できたことから測る視点です。
3. 好奇心を持ち続ける
Be curious.
好奇心を持ち続けよう。
出典:University of Cambridge, “Stephen Hawking in Paralympics Opening Ceremony”
短い言葉ですが、ホーキングの科学観をよく表しています。分からないことを恥じるのではなく、問いへ変えるところから探究が始まります。
好奇心は知識量ではありません。見慣れたものに「なぜ」と問い直せる姿勢です。
4. 人間の心には想像する力がある
The human mind is an incredible thing.
人間の心は、驚くべきものだ。
出典:Science Museum, “Stephen Hawking on how to shape the future of humanity”
人は身体で宇宙の果てへ行けなくても、観測と理論によってその構造を考えられます。ホーキング自身の研究は、その力の具体例でした。
想像力は事実から離れることではありません。事実を足場に、まだ見えていない可能性を組み立てる能力です。
5. 探究と驚きの火花を守る
The spark of enquiry and wonder.
探究と驚きの火花。
出典:Science Museum, “Stephen Hawking on how to shape the future of humanity”
学びの出発点には、正解より先に驚きがあります。「面白い」「不思議だ」という小さな反応が、調べる動機をつくります。
教育の役割は知識を渡すだけでなく、その火花が消えない環境を整えることにもあります。
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科学は人間の根源的な探究である
6. 知性は人間らしさの中心にある
Intelligence is central to what it means to be human.
知性は、人間であることの意味の中心にある。
出典:University of Cambridge, Leverhulme Centre for the Future of Intelligence launch speech
知性とは計算の速さだけではありません。問い、学び、予測し、他者と協力して世界を変える力まで含みます。
だからこそ人工知能を考えることは、人間が何を大切にするのかを問い直すことでもあります。
7. 宇宙を理解したい願いは根源的である
It is a basic human desire.
それは人間の根源的な願いだ。
出典:CNN, “Larry King Live”, 10 September 2010
私たちは役に立つからだけでなく、自分がどこにいるのかを知りたいから宇宙を調べます。理解への欲求そのものが文化と科学を前へ進めます。
アイザック・ニュートンの名言にも、自然の秩序を粘り強く読み取ろうとする姿勢が表れています。
8. 大きな視野は悩みの位置を変える
It also puts our worries in perspective.
それは私たちの悩みを、より大きな視野に置いてくれる。
出典:CNN, “Larry King Live”, 10 September 2010
宇宙的な尺度で考えても、個人の苦しみが消えるわけではありません。ただ、目の前の問題だけが世界のすべてではないと気づけます。
視野を広げることは悩みを軽視することではなく、悩みに飲み込まれない距離をつくることです。
9. 人間には探究することが必要だ
As human beings, we need the quest.
人間には、探究することが必要だ。
出典:Caltech Library, “A Brief History of Time with Hawking at Caltech”
答えを得ることだけが探究の価値ではありません。分からないものへ向かう過程が、知識と人間性の両方を育てます。
完全な答えが見つからなくても、問いが次の世代へ受け継がれることで科学は続きます。
10. 各世代は前の世代の上に築く
Each generation builds on the advances of the previous generation.
各世代は、前の世代の前進の上に築いていく。
出典:Caltech Library, “A Brief History of Time with Hawking at Caltech”
大きな発見も、過去の理論、観測、反論の積み重ねから生まれます。個人の天才だけで科学史を説明することはできません。
リチャード・ファインマンの名言と読むと、疑いながら受け継ぐという科学の姿勢がより鮮明になります。
ブラックホールと発見のユーモア
11. 科学にも生活の味わいが必要だ
Physics is fascinating but after all, you can’t have it for pudding.
物理学は魅力的だが、デザートにはできない。
出典:BBC Radio 4, Reith Lecture 1, “Do black holes have no hair?”
科学への情熱を語りながら、生活の小さな楽しみも忘れない。ホーキングのユーモアは、研究者を遠い存在にしません。
真剣さと軽やかさは両立します。難しい問題に長く向き合うほど、笑いが思考の余白になります。
12. 良い名前は複雑な概念を近づける
Who can resist a name that is such a winner?
これほど魅力的な名前に、誰が抗えるだろう。
出典:BBC Radio 4, Reith Lecture 1, “Do black holes have no hair?”
「ブラックホール」という名が定着した経緯を語る場面です。言葉は、専門概念を社会の想像力につなぐ入口になります。
説明の正確さだけでなく、覚えやすい比喩や名前も科学コミュニケーションの一部です。
13. 消えない結果を受け入れる
The more I thought about it, the more it refused to go away.
考えれば考えるほど、その効果は消えてくれなかった。
出典:BBC Radio 4, Reith Lecture 2, “Black holes ain’t as black as they are painted”
ブラックホールが粒子を放出するという計算結果は、当時の常識に反していました。ホーキングは結果を消そうと試みた末、証拠に従いました。
科学的誠実さとは、自分の予想を守ることではなく、再検討に耐えた結果を受け入れることです。
14. 研究は未完のまま未来へ続く
Watch this space.
この先に注目してほしい。
出典:BBC Radio 4, Reith Lecture 2, “Black holes ain’t as black as they are painted”
研究途中の理論を紹介した後の一言です。科学は確定した知識の一覧ではなく、更新され続ける仕事です。
分からない部分を隠さず、次の検証へ開いておく態度が信頼を支えます。
15. 宇宙は理解できる法則を持つ
We live in a universe governed by rational laws.
私たちは、理性的な法則に支配された宇宙に生きている。
出典:University of Cambridge, “Stephen Hawking in Paralympics Opening Ceremony”
宇宙が法則に従うという前提が、観測と数式を結びつけます。世界は完全に分かったわけではなくても、理解へ近づける対象です。
ジェームズ・クラーク・マクスウェルの名言は、法則を数式で捉える想像力を考える助けになります。
宇宙へ開く人類の未来
16. 宇宙へ広がることは未来を変える
Spreading out into space will have an even greater effect.
宇宙へ広がることは、さらに大きな影響をもたらす。
出典:NASA, “Why We Should Go Into Space”, 21 April 2008
宇宙開発を、単なる探検ではなく文明の選択として捉えた言葉です。新しい環境へ進む試みは、技術だけでなく社会の考え方も変えます。
ただし地球の問題から逃げるのではなく、地球を守りながら長期的な選択肢を増やす視点が必要です。
17. 人類の未来そのものを変える
It will completely change the future of the human race.
それは人類の未来を完全に変えるだろう。
出典:NASA, “Why We Should Go Into Space”, 21 April 2008
長期的な未来を考えるとき、目先の効率だけでは判断できません。基礎科学や宇宙開発は、成果が見えるまで長い時間を要します。
将来世代にどんな可能性を残すかという問いが、投資の意味を変えます。
18. 国境を越えて地球市民になる
We must become global citizens.
私たちは地球市民にならなければならない。
出典:World Economic Forum, “We are all time-travellers”, 23 September 2015
気候、感染症、技術のリスクは国境だけでは区切れません。共通の問題には、立場の違いを越えた協力が必要です。
地球市民という考えは、身近な責任を捨てることではなく、行動の影響範囲を広く見ることです。
19. 勇気と決意で困難を越える
Be brave, be determined, overcome the odds.
勇気を持ち、意志を定め、困難を越えよう。
出典:World Economic Forum, “We are all time-travellers”, 23 September 2015
勇気は恐れがない状態ではなく、困難を認識したうえで進む選択です。決意は一度の感情より、行動を続ける仕組みに現れます。
大きな課題ほど、一人の英雄ではなく、多くの人が役割を持つ必要があります。
20. 技術の未来はまだ決まっていない
We do not yet know which.
どちらになるのか、私たちはまだ知らない。
出典:University of Cambridge, Leverhulme Centre for the Future of Intelligence launch speech
強力な人工知能が人類にとって最良にも最悪にもなりうると述べた後の言葉です。技術の方向は自動的に善くなるわけではありません。
不確実だから止めるのでも、楽観して任せるのでもなく、研究とルールによって望ましい方向を選ぶ責任があります。

