ジャン=ポール・サルトルは、20世紀フランスを代表する哲学者・作家です。実存主義の立場から、自由、選択、責任、不安、他者との関係を問い続けました。
サルトルの言葉は、悩みや考えすぎを簡単に消してくれるものではありません。むしろ、正解が保証されない状況でも、自分の行動を選び直せることを厳しく、そして力強く示します。
この記事では、講演「実存主義はヒューマニズムである」、『存在と無』『方法の問題』『嘔吐』『出口なし』、ノーベル賞辞退に関する声明から、出典を確認した名言30選を紹介します。自由の重さを、自分らしく生きるための小さな一歩へ結び直してみてください。
実存主義の背景を広く考えるには、ニーチェの名言やヘーゲルの名言も参考になります。サルトルが受け継ぎ、批判し、変形した思想の流れが見えやすくなります。
実存は本質に先立つ――自分をつくるサルトルの名言
1. 人は、最初から決められた存在ではない
Existence comes before essence.
実存は本質に先立つ。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
人には、生まれた瞬間から完成した設計図があるわけではない。サルトルは、まず世界に存在し、その後の選択と行動によって自分を形づくると考えました。
過去の失敗や周囲の評価を「自分の本質」と決めつけなくてもかまいません。今日の一つの選択が、これからの自分の輪郭を少しずつ変えていきます。
2. 人は、自分の行動によって自分になる
Man is nothing else but that which he makes of himself.
人間は、自らがつくるもの以外の何ものでもない。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
「自分はこういう人間だから」と止まるのではなく、何を選び、何を続けるかによって人はつくられる。この言葉は、自己理解を固定された説明から行動の方向へ移します。
大きく変わろうとせず、まず一分だけ手を動かしてみてもよいでしょう。その小さな実行も、自分をつくる現実の一部です。
今日の小さな一歩:一分だけ始める対象を一つ決める。
3. 未来へ向かう企てとして生きる
Man is, indeed, a project which possesses a subjective life.
人間とは、主観的な生をもつ一つの企てである。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
サルトルにとって人間は、完成品ではなく未来へ向かう「企て」です。今の状態だけを見て、自分の可能性を閉じる必要はありません。
ただし、企ては願望だけでは形にならない。今日は、未来へつながる作業を一つだけ選び、開始地点をつくるくらいで十分です。
4. 選択は、自分だけの問題ではない
In choosing for himself he chooses for all men.
自分を選ぶとき、人は同時にすべての人間を選んでいる。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
自分の行動は、「人はこのように生きてもよい」という一つの像を示します。自由は孤立した気ままさではなく、他者への影響を伴う選択でもあります。
迷ったときは、「誰も見ていなくても、この選び方を自分は支持できるか」と問い直すと、判断の軸が少し明確になるかもしれません。
5. 自分を形づくることは、人間像を示すこと
In fashioning myself I fashion man.
自分を形づくることで、私は人間を形づくる。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
日々の選択は、個人的な習慣であると同時に、人間のあり方への小さな投票でもあります。誠実に返信する、約束を守る、間違いを認める。そうした行動が価値観を具体化します。
壮大な模範になる必要はありません。目の前の一件を少し丁寧に扱うことも、現実を一ミリ善くする選択です。
自由と責任――言い訳を越えて選ぶための名言
6. 自分の存在を引き受ける
Man is responsible for what he is.
人間は、自分が何であるかについて責任を負う。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
環境や過去は自由に選べません。それでも、与えられた状況にどう応じるかという部分には、自分の選択が残ります。
責任を自責と混同しないことも重要です。自分を罰するのではなく、次に変えられる一手を決める。それが責任を行動へ変える方法です。
7. 自由は、逃れられない課題でもある
Man is condemned to be free.
人間は自由の刑に処されている。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
自由は、好きなことだけをできる軽さではありません。正解が保証されない状況でも、自分で選ばなければならない重さを含みます。
決断が怖いときは、永遠の答えを出そうとせず、今日だけの暫定的な選択に小さくしてみてください。選び直せる余地を残せば、動きやすくなります。
今日の小さな一歩:今日だけの暫定的な選択を一つ書く。
8. 自由だからこそ、行動を選び直せる
We are left alone, without excuse.
私たちは、言い訳なしに取り残されている。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
厳しい表現ですが、これは事情を無視する言葉ではありません。外部の権威が人生の答えを代わりに決めてくれない以上、自分で意味と方向を選ぶほかないという指摘です。
変えられない事情と、今選べる行動を分けてみるとよいでしょう。コントロールできる側に一つ戻るだけで、停滞は少しほどけます。
9. 自由は世界への責任を伴う
He is responsible for the world and for himself.
人は、世界と自分自身に対して責任を負う。
出典:サルトル『存在と無』第4部第1章(英訳文を参照し、日本語訳は筆者訳)
私たちは世界のすべてを支配できません。それでも、自分の立場から何を支持し、何を黙認し、何を変えようとするかは選べます。
ニュースや社会問題に圧倒された日は、関心を一つに絞り、信頼できる情報を一件読む、身近な人を一人助ける、といった範囲へ戻してもよいのです。
10. 人生の意味は、選択によって与えられる
It is up to you to give life a meaning.
人生に意味を与えるのは、あなた自身である。
出典:サルトル『存在と無』(英訳文を参照し、日本語訳は筆者訳)
人生の意味が最初から外側に用意されていないなら、意味は発見するだけでなく、行動を通じてつくられるものになります。
遠い使命を探し続けなくてもかまいません。今日、守りたいものに十分だけ時間を使う。その積み重ねが、生の意味を具体的にしていきます。
不安と選択――考えすぎたときに戻りたい名言
11. 不安は、行動を妨げるだけではない
Anguish is a condition of action itself.
不安は、行動そのものの条件である。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
選択肢があり、結果が確実でないからこそ不安が生まれます。つまり不安は、何かを大切に考え、実際に選ぼうとしている徴でもあります。
不安を完全に消してから始める必要はありません。行動科学でいう行動活性化、つまり気分を待たず小さく動く方法が助けになる場合があります。
今日の小さな一歩:不安を消す代わりに、次の一手を決める。
12. 不安から完全には逃れられない
We cannot escape anguish, for we are anguish.
私たちは不安から逃れられない。私たち自身が不安だからである。
出典:サルトル『存在と無』第1部第1章(英訳文を参照し、日本語訳は筆者訳)
自由に選ぶ存在である以上、不安をゼロにすることは難しい。サルトルは、不安を異常として排除するより、人間の自由と結びついた経験として捉えます。
不安がある自分を責めず、「それでも次に何を選ぶか」へ意識を戻してみてください。深呼吸を一回し、次の作業名だけ書くのも立派な再開です。
13. 感情は、行動によって確かめられる
Feeling is formed by the deeds that one does.
感情は、人が行う行為によって形づくられる。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
「やる気が出たら始める」と考えると、開始は感情任せになります。サルトルは、感情も行為によって定まり、確かめられる面があると述べました。
やる気をつくろうとせず、ファイルを開く、道具を出す、一文だけ書く。行動の後から気持ちがついてくることもあります。
14. 助言を選ぶことも、自分の選択である
To choose an adviser is nevertheless to commit oneself.
助言者を選ぶこともまた、自らを方向づける選択である。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
誰に相談するかによって、受け取る答えの傾向は変わります。助言を求める行為にも、すでに自分の価値観や期待が表れているという指摘です。
複数の意見で迷ったら、情報を増やす前に「自分は何を守りたいのか」を一行で書いてみてください。相談は、判断を丸投げするためではなく、判断材料を整えるために使えます。
今日の小さな一歩:自分が守りたい価値を一行にする。
15. 自由であるなら、選び、つくり出す
You are free, therefore choose—that is to say, invent.
あなたは自由だ。だから選びなさい。つまり、つくり出しなさい。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
具体的な人生の場面では、一般的な規則だけで唯一の正解を導けないことがあります。そのとき必要なのは、状況に応じた答えを自分でつくることです。
完璧な計画ではなく、試せる仮説を一つ選ぶ。うまくいかなければ修正する。その柔らかさも、自由を現実に使う方法です。
社会・歴史・仕事――状況の中で動くための名言
自由を社会や政治の中で考える視点は、ハンナ・アーレントの名言とも響き合います。個人の選択と公共的な責任を、別の角度から読み比べられます。
16. 私たちは、自分のあり方を決めている
We ourselves decide our being.
私たちは、自分自身のあり方を決める。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
出来事にどんな意味を読み取り、どの方向へ進むかは一つに決まっていません。同じ挫折から、諦める人も、学び直す人もいます。
認知的再評価、つまり出来事の意味づけを見直す方法として、「これは終わりか、それとも調整材料か」と問い直してみるのも一案です。
今日の小さな一歩:約束を、五分以内の作業へ小さくする。
17. まず関わり、その後に行動を続ける
First I ought to commit myself and then act my commitment.
まず自ら関わり、その関わりに従って行動すべきである。
出典:サルトル「実存主義はヒューマニズムである」(1946年講演、英訳 Philip Mairet、日本語訳は筆者訳)
確実な成功を待っていては、何も始まりません。サルトルは、保証のない世界でも、自分が引き受けた方向へ行動することを重視しました。
今日の約束を一つだけ具体化してみてください。「ブログを書く」ではなく「見出しを一つ決める」とすれば、関与が現実の動きになります。
18. 哲学は一枚岩ではない
Philosophy does not exist. Actually, there are philosophies.
哲学という単一のものは存在しない。実際にあるのは、複数の哲学である。
出典:サルトル『方法の問題』第1部(英訳 Hazel Barnes、日本語訳は筆者訳)
思想は時代や社会から切り離された抽象物ではなく、具体的な状況の中で生まれます。一つの理論を万能の答えとして扱わない姿勢がここにあります。
自分に合わない助言を無理に信じる必要はありません。複数の考えを比較し、今の状況に役立つものを選ぶことが、実践的な読書につながります。
19. 創造したものに自分を見失わない
Creative work is alienated; man does not recognise himself in his own product.
創造的な仕事は疎外され、人は自分の生産物の中に自分を認められなくなる。
出典:サルトル『方法の問題』第1部(英訳 Hazel Barnes、日本語訳は筆者訳)
仕事が数字、評価、納期だけに回収されると、自分が何のために作っているのか見えなくなることがあります。サルトルは、この断絶を個人の気分だけでなく歴史的・社会的な問題として捉えました。
作業の前に「誰のどんな困りごとを一つ減らすのか」を短く書くと、成果物と自分の目的を結び直しやすくなります。
今日の小さな一歩:未完成の箇所を一つだけ直す。
20. まだ行うべきことは残っている
Everything remains to be done.
すべては、なお行われるべきものとして残っている。
出典:サルトル『方法の問題』第2部(英訳 Hazel Barnes、日本語訳は筆者訳)
既存の理論を完成した知識として受け取るのではなく、方法を見つけ、検証し、つくり直す必要がある。これは研究だけでなく、日々の仕事にも通じる態度です。
未完成を失敗と見なさず、次の改善点が見えている状態と考えてみてください。今日は一箇所だけ直す。それでも前進は成立します。
