樋口一葉は、明治の社会で生きる女性、子ども、貧しい暮らしの人々を、外から説明するのではなく、その声や迷いが聞こえる形で描いた小説家です。この記事では、『たけくらべ』『にごりえ』『十三夜』『わかれ道』『大つごもり』から、意味が一続きで完結し、本文で確認できる25の言葉を選びました。
物語の台詞には、作者自身の主張とは区別すべきものもあります。そこで各言葉について、誰の台詞または地の文かを明記し、時代背景をそのまま現代の正解にせず、自立、孤独、成長、仕事、別れを考える材料として解説します。
同時代の女性の自立を明確な評論として読むなら、与謝野晶子の名言が参考になります。また、生活の苦しさを文学へ変えた表現は、石川啄木の名言とも響き合います。
人と向き合い、感情を言葉にする
1. 争いを避けることも強さである
As far as possible, the one who avoids a quarrel is the winner.
成るべく喧嘩は爲ぬ方が勝だよ。
出典:樋口一葉『たけくらべ』第二章・信如の言葉(英訳は当サイトによる)
信如は、仲間の対立に巻き込まれながらも、争わずに済むならそれが最善だと語ります。勝敗を相手を打ち負かすことだけで測らず、不要な損失を避ける判断にも価値を置く言葉です。
反射的に言い返したくなったら、返答を一分だけ保留し、「今ここで争う必要があるか」を確認してみましょう。
2. 皆にとってよい形を一緒に工夫する
Let each person devise an idea, and let us choose what is good for everyone.
趣向は何なりと各自に工夫して大勢の好い事が好いでは無いか。
出典:樋口一葉『たけくらべ』第三章・美登利の言葉(英訳は当サイトによる)
美登利は、自分だけで決めるのではなく、それぞれが案を出し、多くの人が楽しめる形を選ぼうとします。豊かさとは、資金を出すこと以上に、参加する人の工夫を生かすことだと読めます。
複数人で決める用事では、先に自分の結論を押し出さず、全員から一案ずつ集めてから選びましょう。
3. 困っている人には具体的な助けを差し出す
It is all right; I am used to it. Your feet are too soft for this stony road, so put these on and go.
好いよ、己れは馴れた事だ、信さんなんぞは足の裏が柔らかいから跣足で石ごろ道は歩けない、さあ此れを履いてお出で。
出典:樋口一葉『たけくらべ』第十三章・長吉の言葉(英訳は当サイトによる)
粗野に見られがちな長吉が、鼻緒を切った信如へ自分の下駄を差し出す場面です。人の優しさは評判や外見だけでは測れず、必要な瞬間の行動に表れます。
助けを求める人に「大丈夫ですか」と聞くだけでなく、今できる具体的な手助けを一つ提示してください。
4. 望まない変化には嫌だと言ってよい
I cannot bear it; I dislike it completely.
私は厭やでしようが無い。
出典:樋口一葉『たけくらべ』第十四章・美登利の言葉(英訳は当サイトによる)
髪形を変えられた美登利の言葉には、本人の意思とは別に大人の世界へ移される痛みがにじみます。短い拒絶は、変化を受け入れる準備がまだないという正直な感情でもあります。
自分の意思を置き去りにして進みそうなことがあれば、まず「私は今、それを望んでいません」と一文だけ言葉にしましょう。
5. 怒りと悲しみを取り違えない
Shota, I am not angry.
正太さん私は怒つて居るのでは有りません。
出典:樋口一葉『たけくらべ』第十五章・美登利の言葉(英訳は当サイトによる)
美登利は泣いている理由をうまく説明できませんが、少なくとも怒っているのではないと伝えます。表面に見える態度と、内側にある悲しみや不安は一致しないことがあります。
感情が乱れたときは、「怒り・悲しみ・不安・疲れ」のうち最も近いものを一つ選び、相手へ短く伝えてみてください。
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樋口一葉の物語を原文で読んでみる
短い言葉だけでなく前後の場面まで読むと、人物の感情と社会の制約がよりはっきり見えてきます。収録作品と底本を確認し、自分が読みたい作品を含む一冊から始める方法がおすすめです。
孤独と閉塞の中で自分を見失わない
6. 終わった縁を無理に追わない
Please accept that it was a bond not meant to last.
無き縁とあきらめて下さい。
出典:樋口一葉『にごりえ』第一章・お力の言葉(英訳は当サイトによる)
お力は、戻りそうにない関係を引き止めるよう勧められても、縁がなかったものとして扱います。諦めは常に敗北ではなく、戻らないものへ心を縛り続けないための区切りにもなります。
終わった出来事を変えようと考え続けているなら、「今日の自分が動かせること」だけを一つ書き出しましょう。
7. 不運を感じる人の言葉を軽く扱わない
For someone as unfortunate as I am, no charm or spell would work.
私しのやうな運の惡るい者には呪も何も聞きはしない。
出典:樋口一葉『にごりえ』第一章・お高の言葉(英訳は当サイトによる)
お高の言葉は冗談めいていますが、自分だけがうまくいかないという諦念を含んでいます。励ましを急ぐより、そう感じるまでに何があったのかを聞く方が、相手の現実に近づけます。
落ち込んでいる人へ助言する前に、「何が一番つらいですか」と一度だけ尋ね、答えを遮らず聞いてください。
8. すべてから遠くへ逃げたい日もある
If I could, I would keep going just as I am, all the way to the ends of the earth.
行かれる物なら此まゝに唐天竺の果までも行つて仕舞たい。
出典:樋口一葉『にごりえ』第五章・お力の独白(英訳は当サイトによる)
お力の逃走願望は、単なる気まぐれではなく、長く積み重なった疲労と閉塞から生まれています。逃げたいという感覚は、現在の負荷が限界に近いことを知らせる信号の場合があります。
全部を投げ出したくなったら大きな決断を急がず、まず十分だけ場所を変え、水分を取り、次に減らせる負担を一つ選びましょう。
9. 静けさを求める心を無視しない
How could I reach a quiet place where no human voice or sound is heard, where even my own mind grows blank and free of thought?
何うしたなら人の聲も聞えない物の音もしない、靜かな、靜かな、自分の心も何もぼうつとして物思ひのない處へ行かれるであらう。
出典:樋口一葉『にごりえ』第五章・お力の独白(英訳は当サイトによる)
考えも音も止めたいという願いには、心が休息を必要としている切実さがあります。問題を解決する思考も、休めない状態では同じ場所を回り続けやすくなります。
通知を切り、画面を伏せ、一分だけ音の少ない場所で呼吸してください。答えを出すのは、その後で構いません。
10. 惰性の人生を問い直す
Is this a whole life? Is a whole life only this?
これが一生か、一生がこれか。
出典:樋口一葉『にごりえ』第五章・お力の独白(英訳は当サイトによる)
同じ苦しさが続くと、今日の状態が人生全体のように感じられます。この問いは絶望の表現である一方、現状を当然とせず、別の生き方があり得ると気づく入口でもあります。
一年後も続いてほしくないことを一つ挙げ、その状態を一ミリ変える行動を今日中に一つだけ行いましょう。
怖さを抱えたまま自分の道を選ぶ
11. 怖くても渡るべき橋がある
There is no help for it; I too must cross the log bridge.
仕方がない矢張り私も丸木橋をば渡らずばなるまい。
出典:樋口一葉『にごりえ』第五章・お力の独白(英訳は当サイトによる)
丸木橋は、不安定で怖い人生の選択を思わせます。安全が保証されるまで待てない状況では、恐怖を消すことより、落ちにくい一歩を選ぶ方が現実的です。
避けている用事を最小単位に分け、今日は「連絡先を開く」「一行書く」など最初の一手だけ進めてください。
12. 分からないままでも自分を手放さない
Even without knowing the way, I will go on as O-Riki of Kikunoi.
分らぬなりに菊の井のお力を通してゆかう。
出典:樋口一葉『にごりえ』第五章・お力の独白(英訳は当サイトによる)
お力は進む方向を見いだせないまま、それでも自分として生きることを選びます。確信がない時期にも、他人の期待へ自分を丸ごと明け渡さない姿勢は保てます。
迷っていることについて、「少なくともこれはしたくない」という境界線を一つだけ決めてください。
13. 周囲の声と自分の考えを分ける
Other people’s voices were their voices, and my thoughts were my own, each separate from the other.
人の聲は、人の聲、我が考へは考へと別々に成りて。
出典:樋口一葉『にごりえ』第五章・地の文(英訳は当サイトによる)
周囲が騒がしくても、自分の内面は別の場所にあります。人の評価と自分の判断を混同すると、何を望んでいるのかが見えにくくなります。
気になる他人の言葉を一つ書き、その下に「事実」と「自分の判断」を分けて二行で整理しましょう。
周囲の声と自分の判断を分ける視点は、社会の常識を問い直した坂口安吾の名言と比べて読むと、文学が個人の自由をどう描くかを考えやすくなります。
14. 長く考えた末の決断を尊重する
I reconsidered a thousand times and a hundred times, and after two or three years of tears, today I finally resolved to ask for a divorce.
千度も百度も考へ直して、二年も三年も泣盡して今日といふ今日どうでも離縁を貰ふて頂かうと決心の臍をかためました。
出典:樋口一葉『十三夜』上・お関の言葉(英訳は当サイトによる)
お関の決断は衝動ではなく、長い逡巡と苦痛の末に出されたものです。外からは突然に見える選択でも、本人の中では何度も検討されていることがあります。
重大な相談を受けたら、すぐに結論を評価せず、「そこまで決めるまでに何がありましたか」と経緯を聞きましょう。
15. 不足を責める前に学ぶ機会をつくる
If I lacked the skill, he could have let me learn it quietly, without shaming me.
出來ずは人知れず習はせて下さつても濟むべき筈。
出典:樋口一葉『十三夜』上・お関の言葉(英訳は当サイトによる)
できないことを人前で責めるより、学ぶ機会を用意する方が問題の解決につながります。能力不足と人格否定を結びつけないことは、教育でも職場でも重要です。
誰かのミスを指摘するときは、責める言葉を一つ減らし、次にできる具体的な手順を一つ添えてください。
限界を認め、生活を立て直す
16. 耐え続けた自分の限界を認める
Even I cannot understand how I have endured so much.
我身ながら我身の辛棒がわかりませぬ。
出典:樋口一葉『十三夜』上・お関の言葉(英訳は当サイトによる)
我慢できたことと、我慢し続けるべきことは同じではありません。耐えてきた年月を認めることは、限界を超えた環境から離れる判断を弱さではなく現実として捉える助けになります。
「もう十分に耐えた」と感じることを一つ書き、相談できる人や窓口を一つだけ確認してください。
17. 苦しいのは自分一人だと思わない
Do not think that you alone suffer in this painful world.
誰れも憂き世に一人と思ふて下さるな。
出典:樋口一葉『十三夜』下・お関の言葉(英訳は当サイトによる)
お関は、落ちぶれた幼なじみに、自分だけが不幸なのではないと語ります。苦しみを比較して小さくする言葉ではなく、孤立していると思う相手へ共通の人間性を差し出す言葉です。
一人で抱えている人へ、解決策より先に「あなた一人だけの問題として扱いません」と伝えてください。
18. 言葉にならない思いもある
There is so much I wish to say, yet I cannot put it into words; please understand.
何か申たい事は澤山あるやうなれど口へ出ませぬは察して下され。
出典:樋口一葉『十三夜』下・お関の言葉(英訳は当サイトによる)
強い感情ほど、整った説明にならないことがあります。話せないことを無理に言わせず、沈黙にも事情があると受け止める余地が、人との関係を守ります。
返事に困っている相手には、「今は言葉にできなくても大丈夫です」と一度だけ伝え、急かさず待ちましょう。
19. 自分の手で生活を立て直そうとする
From now on I will do sewing work or whatever I can, become a support to Inosuke, and live the rest of my life alone.
私はこれから内職なり何なりして亥之助が片腕にもなられるやう心がけますほどに、一生一人で置いて下さりませ。
出典:樋口一葉『十三夜』上・お関の言葉(英訳は当サイトによる)
お関は苦しい婚姻から離れた後の生活を、働くことと家族を支えることまで含めて考えています。自立は感情だけでなく、暮らしをどう成り立たせるかという具体性を伴います。
生活を変えたいときは、理想だけでなく「収入・住まい・相談先」の三項目から、最初に確認する一つを決めてください。
20. 惜しい別れでも受け入れるしかない時がある
It pains me to part from you, but if this is only a dream, there is nothing to be done.
お別れ申すが惜しいと言つても是れが夢ならば仕方のない事。
出典:樋口一葉『十三夜』下・録之助の言葉(英訳は当サイトによる)
再会した二人には多くの思いがありますが、その場で人生を変えることはできません。大切だったことを否定せず、それでも現実の別れを受け入れる静けさがあります。
戻せない別れを思うときは、相手や過去へ伝えたかった感謝を一文だけ書き、今日の生活へ戻りましょう。