アルフレッド・アドラーは、個人心理学を築き、劣等感、人生の意味、共同体感覚、勇気を深く考えた心理学者です。人は過去だけで決まるのではなく、経験にどんな意味を与え、これから何を選ぶかによって生き方を変えられると考えました。
不安や考えすぎ、人間関係の疲れ、行動できない苦しさは、単に心が弱いから生まれるものではありません。自分を守ろうとする目的や、失敗を避けたい気持ちが、いつの間にか選択肢を狭くしている場合があります。
この記事では、アドラーの著作や記録された言葉から、人生、人間関係、劣等感、勇気、貢献を考える30の言葉を紹介します。答えを急がず、今できる最小の一歩へ戻るための読み物としてお使いください。
人生の意味と、自分が選ぶ方向
1. 経験よりも、そこに与える意味が未来を形づくる
We are self-determined by the meaning we give to our experiences.
私たちは、経験そのものではなく、経験に与える意味によって自分の方向を決めている。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』第1章(日本語訳は筆者訳)
過去の出来事は変えられません。しかし、その出来事を「終わり」と読むか、「これから選び直すための材料」と読むかには余地があります。アドラーは、人を過去だけで決まる存在として見ませんでした。
失敗を思い返して動けない日は、出来事と解釈を一度分けてみるとよいかもしれません。紙に「起きたこと」と「私がつけた意味」を一行ずつ書くだけでも、次の選択肢が見えやすくなります。
2. 状況が意味を決めるのではなく、意味づけが行動を決める
Meanings are not determined by situations. We determine ourselves by the meanings we give to situations.
意味は状況によって決まるのではない。私たちは、状況に与える意味によって自分を方向づける。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』第1章(日本語訳は筆者訳)
同じ出来事でも、ある人は屈辱と受け取り、別の人は学びの機会と受け取ります。これは苦しみを無理に前向きへ塗り替える話ではなく、解釈が唯一ではないと知るための視点です。
今すぐ答えを出せない問題なら、「ほかにどんな見方が一つだけ可能か」と問い直してみてください。認知的再評価、つまり出来事の意味づけを見直す工夫に近い小さな練習になります。
3. 自分だけに閉じた意味は、人生を狭くしてしまう
A private meaning is in fact no meaning at all.
自分だけに閉じた意味は、実のところ意味とはいえない。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』第1章(日本語訳は筆者訳)
アドラーが重視したのは、人生の意味を他者との関係から考えることでした。自分の成功だけを追い続けると、達成しても孤立や空虚さが残る場合があります。
今日の行動に迷ったら、「これは誰の役に立つだろう」と一度だけ考えてみてもよいでしょう。大きな奉仕でなくても、返信を一通返す、共有物を整えるといった行動で十分です。
4. 人の価値は、他者への姿勢と貢献に表れる
Any man’s value is determined by his attitude toward his fellow men.
人の価値は、仲間に対してどのような態度をとるかによって示される。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』社会生活に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
肩書きや評価より、日常で周囲にどう接するかに人柄が表れる。私はこの言葉を、目立つ成果よりも、見えない場面での誠実さを大切にする教えとして受け止めています。
誰にも評価されない小さな仕事を一つ丁寧に終える。それだけでも、現実を一ミリ善くする行動になります。
5. 人生には、仕事・協力・愛という三つの課題がある
These three ties set three problems: occupation, fellowship, and love.
私たちを結ぶ三つのつながりは、仕事、仲間との協力、愛という三つの課題を生み出す。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』第1章(日本語訳は筆者訳)
人生の悩みは複雑に見えても、アドラーは多くを「仕事」「共同生活」「愛」の課題として整理しました。分類すると、漠然とした不安が少し具体的になります。
今抱えている悩みを三つのどこに置けるか、一語だけ書いてみてください。問題を解く前に、問題の種類を見定めることが次の一歩になります。
人生の意味を哲学的に考えたい方は、ソクラテスの名言40選も参考になります。問いを立て直すことで、悩みとの距離が変わるかもしれません。
劣等感を、成長の出発点に変える
6. 人間であることは、不完全さを感じることでもある
To be human means to feel inferior.
人間であるとは、劣っていると感じることでもある。
出典:アルフレッド・アドラーの1933年の発言として記録された言葉(日本語訳は筆者訳)
劣等感は、それ自体が病気なのではありません。できないことに気づくからこそ、人は学び、補い、他者と協力できます。
自分の弱さを見つけたとき、「だから駄目だ」ではなく「何を一つ補えるか」と問い直してみる。完璧を目指すより、補助線を一本引くような行動が役立ちます。
7. 弱点が資産になるか負担になるかは、使い方で変わる
Only the situation can determine whether inferiorities are assets or liabilities.
劣っていると感じる点が資産になるか負担になるかは、状況によって決まる。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』劣等感に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
慎重さは、決断の遅さにもなれば、事故を防ぐ力にもなります。敏感さは疲れやすさにもなれば、他人の変化へ気づく力にもなるでしょう。
短所を消そうとする前に、「この性質が役立った場面」を一つ思い出してみてください。自分への見方が少し柔らかくなります。
8. 優越を急ぐほど、他者への配慮を失いやすい
The pathological power-drive seeks its goal with haste, impatience, and little consideration for others.
病的な権力欲は、性急さと焦りを伴い、他者への配慮を失ったまま目標へ向かう。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』権力欲に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
「負けたくない」が強くなりすぎると、本来の目的より、相手を上回ることが中心になってしまいます。結果として、人間関係も判断も荒くなりがちです。
焦っていると気づいたら、勝つための行動と、目的を果たすための行動を分けてみてください。今日は後者を一つだけ選べば十分です。
9. 失敗の原因を外に置くだけでは、道を選び直せない
People seldom stop to consider where they went wrong.
人は、自分がどこで道を誤ったのかを立ち止まって考えることが、めったにない。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』誤った生活方向に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
自分を責め続ける必要はありませんが、すべてを環境や他人のせいにすると、変えられる部分まで手放してしまいます。責任とは、自罰ではなく、次の選択を取り戻すことです。
うまくいかなかった出来事について、「次回、自分が変えられる一手」を一つだけ書いてください。小さく具体的なほど、再開しやすくなります。
10. 試される直前の回避には、虚栄が隠れることがある
Vanity makes people take a detour just when their ability is about to be tested.
虚栄心は、能力が試されようとするまさにその時、人を回り道へ向かわせる。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』虚栄に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
完璧にできないなら始めない、という態度は、失敗から自尊心を守る方法にもなります。しかし、試さなければ能力は育たず、不安だけが残ります。
完成ではなく着手を目標にして、作業を一分だけ始めてみてください。小さくラフに始めることが、回避の輪を切る最小の行動になります。
劣等感と自己超克を別の角度から考えるなら、ニーチェの名言30選もあわせて読めます。
人間関係と共同体感覚
11. 人を理解するには、近づいて関わる必要がある
Without sufficient contact with our fellow men, our judgments are frequently false.
仲間との十分な接触がなければ、私たちの判断はしばしば誤る。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』人間理解に関する序論(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
遠くから見た印象だけで、人を決めつけるのは簡単です。けれど、相手の事情や目的を知ると、同じ行動が別の意味に見える場合があります。
人間関係で腹が立ったとき、断定する前に一つだけ質問してみてもよいでしょう。理解は、同意することではなく、判断材料を増やすことです。
12. 他者への関心を失うと、人生の困難は深くなる
The individual who is not interested in fellow men has the greatest difficulties in life.
仲間に関心を持たない人は、人生で最も大きな困難を抱える。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』共同体感覚に関する章(日本語訳は筆者訳)
孤独が悪いという意味ではありません。自分の世界だけで悩み続けると、助けを求める道や、誰かに役立つことで得られる手応えを失いやすいという指摘です。
今日は一人だけ、相手の近況を尋ねる短い連絡を送ってみてもよいかもしれません。つながりは、大きな社交より小さな関心から始まります。
13. 意味は、他者と分かち合えるときに生まれる
Meaning is only possible in communication.
意味は、他者とのコミュニケーションの中で初めて可能になる。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』第1章(日本語訳は筆者訳)
考えを言葉にして誰かへ伝えると、自分でも初めて理解できることがあります。意味は頭の中だけで完成するのではなく、関係の中で確かめられていくものなのでしょう。
悩みが堂々巡りしているなら、信頼できる人へ一文だけ共有するか、未来の自分へ短いメモを残してみてください。
14. 協力は、力で勝ち取ることができない
Cooperation and love cannot be won by force.
協力や愛は、力ずくで勝ち取ることはできない。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』教育と協力に関する章(日本語訳は筆者訳)
相手を従わせることと、相手が自発的に協力することは別です。命令で一時的な行動は得られても、信頼までは得られません。
頼みごとをするとき、命令を一つ減らし、目的を一言説明してみる。それだけで、関係の摩擦が小さくなる場合があります。
15. 人の平等を破れば、対立と不調和が生まれる
The law of the equality of all human beings cannot be broken without producing opposition and discord.
すべての人間が平等であるという法則を破れば、反発と不調和が生まれる。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』社会の平等に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
相手を下に置いて関係を安定させようとすると、表面上は従っていても、内側には反発が残ります。対等さは、優しさだけでなく、長く協力するための現実的な条件です。
会話で相手の話を遮っていたと気づいたら、次の一回だけ最後まで聞いてみてください。対等さは、具体的な態度に表れます。
人との関わりと幸福については、アリストテレスの名言30選にも通じる視点があります。
勇気と、現実を動かす行動
16. 原則を語るより、日常で生きるほうが難しい
It is always easier to fight for one’s principles than to live up to them.
自分の原則のために戦うことは、その原則どおりに生きることより、いつも容易である。
出典:アルフレッド・アドラー『Problems of Neurosis』に収録され、伝記にも記録された言葉(日本語訳は筆者訳)
正しさを主張する場面では、自分の信念を強く感じられます。しかし、誠実さや節度を毎日の小さな選択で守ることのほうが難しい。
今日は、自分が大切だと言っている価値を一つ、目立たない行動で実行してみてください。約束の時間を守る、謝る、片づける。その程度で十分です。
17. 日常では、正しさの勝負より貢献がものをいう
What counts is getting things done and making a contribution to the lives of others.
重要なのは、物事を成し遂げ、他者の生活に貢献することである。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』虚栄に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
議論に勝っても、問題が残ったままなら現実は変わりません。アドラーの視点は、正しさを捨てるのではなく、正しさを役立つ行動へ移すことを促します。
誰が悪いかを考え続けているときは、解決へ進む作業を一つだけ選んでみてください。メールを一本送る、必要事項を三行に整理する。それが善進です。
18. 人生の困難を避け続けると、不安を招き入れる
Once we decide that life’s difficulties must be avoided, we invite anxiety in.
人生の困難は避けなければならないと決めた瞬間、私たちは不安を招き入れる。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』不安に関する章(英訳版をもとに筆者訳)
不安を感じること自体は自然です。ただ、「不安がなくなるまで動けない」と決めると、回避するほど対象が大きく見えてきます。
行動活性化、つまり気分が整うのを待たずに小さく動く考え方があります。怖い作業なら、ファイルを開くだけ、見出しだけ書くといった一分の行動から始められます。
19. 失敗を恐れて社会から離れると、問題は解けない
Nobody adopts antisocial behavior unless they fear they will fail on the social side of life.
社会から離れる行動を選ぶ人は、社会の中で失敗することを恐れている。
出典:アルフレッド・アドラー『What Life Should Mean to You』共同体感覚に関する章(日本語訳は筆者訳)
傷つかないために距離を取ることは、ときに必要です。一方で、失敗への恐れからすべての関係を断つと、協力を学ぶ機会まで失います。
大きな集団へ戻る必要はありません。安心できる一人との短い会話から、関わりを再開してもよいのだと思います。
20. 力で押すほど、相手の抵抗も強くなる
No one can raise himself above society without arousing opposition.
社会の上に自分を置こうとすれば、必ず他者の反発を呼び起こす。
出典:アルフレッド・アドラー『Understanding Human Nature』権力と平等に関する章(英訳:W・ベラン・ウルフ、日本語訳は筆者訳)
支配で得られるのは、協力ではなく抵抗との競争です。家庭でも職場でも、相手を押し下げて自分を上げる方法は、長期的には多くのエネルギーを奪います。
意見がぶつかったら、相手を負かす表現を一つ減らし、共通の目的を一つ言葉にしてみてください。
自分を信頼して行動するというテーマは、エマーソンの名言30選でも深く扱っています。