簡素さと心の平静を守るエピクロスの名言
21. 快い人生をつくるのは、刺激の連続ではなく冷静な思考である
It is sober reasoning, searching out the grounds of every choice and avoidance, and banishing those beliefs through which the greatest disturbances take possession of the soul.
快い人生を生むのは、冷静な思考である。それは、選択と回避の理由を探り、魂を大きく乱す信念を追い払う。
出典:エピクロス『メノイケウス宛の手紙』132(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
心地よさを長く守るには、何を選び、何を避けるかを落ち着いて考える必要があります。感情を否定せず、理由まで見る姿勢です。
衝動が強いときは、すぐ決めずに一度水を飲む。一呼吸の間を入れるだけでも、選択を自動反応から取り戻せます。
22. 自然が求める豊かさには限界があり、手に入れやすい
Nature’s wealth at once has its bounds and is easy to procure; but the wealth of vain fancies recedes to an infinite distance.
自然が求める豊かさには限界があり、手に入れやすい。しかし、空虚な想像が求める豊かさは、無限の彼方へ遠ざかっていく。
出典:エピクロス『主要教説』第15条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
生活に必要なものには範囲がありますが、比較や見栄から生まれる欲望には終点がありません。基準が他人にあるほど、十分という感覚は遠ざかります。
欲しいものを一つ選び、「何が満たされれば十分か」を先に決めてみてください。限界を定めることは、楽しみを減らすより自由を増やします。
23. 必要を満たすものは、思うより簡単に手に入る
He who understands the limits of life knows how easy it is to procure enough to remove the pain of want and make the whole of life complete and perfect.
人生の限界を理解する人は、欠乏の痛みを取り除き、人生全体を満たすだけのものが、いかに容易に得られるかを知っている。
出典:エピクロス『主要教説』第21条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
人生の充足を、無限の達成ではなく必要が満たされた状態から考えます。ゴールを増やし続けると、完成感はいつまでも訪れません。
今日を成立させる最低条件を三つだけ決める方法があります。全部ではなく、その三つができれば十分と先に認めておくと動きやすくなります。
24. 満たされなくても苦痛がない欲望は、手放しやすい
All such desires as lead to no pain when they remain ungratified are unnecessary, and the longing is easily got rid of, when the thing desired is difficult to procure or when the desires seem likely to produce harm.
満たされなくても痛みを生まない欲望は必要ではない。望むものが得にくい時や害を生みそうな時、その欲求は比較的容易に手放せる。
出典:エピクロス『主要教説』第26条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
欲望があることと、満たさなければならないことは別です。満たさなくても生活が崩れないなら、選ばない自由があります。
気になる買い物や予定を二十四時間保留してみてもよいでしょう。時間を置いて苦痛がないなら、必要ではなかったと分かることがあります。
25. 人混みから離れた静かな生活にも、確かな安全がある
When tolerable security against our fellow humans is attained, then on a basis of power sufficient to afford supports and of material prosperity arises in most genuine form the security of a quiet private life withdrawn from the multitude.
他者からの十分な安全が得られ、生活を支える力と物質的な基盤が整えば、群衆から距離を置いた静かな私生活に、最も確かな安全が生まれる。
出典:エピクロス『主要教説』第14条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
多くの人から注目されることより、安心して暮らせる基盤と静かな時間を重視した言葉です。社会との関係を断つというより、名声に心を預けない生き方を示します。
一日の中に、誰にも評価されない十分間を作ってみてもよいでしょう。画面を閉じ、自分のペースへ戻る時間が平静を守ります。
友情と正義を大切にするエピクロスの名言
26. 正しく生きる人は平静で、不正は心を乱す
The just person enjoys the greatest peace of mind, while the unjust is full of the utmost disquietude.
正しい人は最も大きな心の平静を享受し、不正な人は最も深い不安に満たされる。
出典:エピクロス『主要教説』第17条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
正義を社会的な規則だけでなく、心の平静を守る条件として捉えています。隠し事や後ろめたさは、発覚しなくても注意を奪います。
小さな約束を一つ守る、間違いを早めに伝える。その誠実さが、自分の心を静かにする土台になります。
27. 幸福を支える知恵の中で、友情が最も大切である
Of all the means which are procured by wisdom to ensure happiness throughout the whole of life, by far the most important is the acquisition of friends.
生涯の幸福を確かなものにするために知恵が用意するすべての手段の中で、はるかに重要なのは友を得ることである。
出典:エピクロス『主要教説』第27条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
エピクロスの幸福は、一人で完結するものではありません。信頼できる人がいることは、物質的な所有以上に長い安心を支えます。
用事がなくても、感謝や近況を短く送る。友情を大きなイベントにせず、小さな往復で守ることができます。
28. 限られた人生で、安全を最も高めるのは友情である
The same conviction which inspires confidence that nothing we have to fear is eternal or even of long duration, also enables us to see that even in our limited conditions of life nothing enhances our security so much as friendship.
恐れるものは永遠でも長続きするものでもないという確信は、限られた人生の中で、友情ほど安全を高めるものはないと理解させてくれる。
出典:エピクロス『主要教説』第28条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
苦しみが永遠ではないという理解と、人との支えがあるという実感は、不安へ二重の距離を作ります。
一人で抱えていることを、信頼できる人へ一文だけ伝えてもかまいません。解決を求めず、共有するだけでも孤立は弱まります。
29. 正義とは、互いに害さず害されないための約束である
Natural justice is a symbol or expression of usefulness, to prevent one person from harming or being harmed by another.
自然な正義とは、一人が他者を害さず、また他者から害されないための有用な約束を表すものである。
出典:エピクロス『主要教説』第31条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
正義を抽象的な命令ではなく、共に安全に暮らすための約束として説明しています。互いの境界を守ることが、平静の共有につながります。
人間関係で曖昧さが負担になっているなら、できることと難しいことを一つずつ言葉にする。境界を伝えることは、相手を拒むより関係を守る行動です。
30. 隠した不正は、発覚しないという確信を持てない
It is impossible for the person who secretly violates any article of the social compact to feel confident that he will remain undiscovered, even if he has already escaped ten thousand times.
社会の約束をひそかに破る人は、たとえ一万回見つからずに済んでも、これからも発覚しないという確信を持つことはできない。
出典:エピクロス『主要教説』第35条(英訳:Robert Drew Hicks、日本語訳は筆者訳)
隠し通せた回数は、安心を保証しません。秘密を守るための警戒が続く限り、不正は心の平静を削ります。
正直に戻れるうちに、小さく修正する方が負担は少なくなります。曖昧にしている報告や約束を一つ整えてみてください。
エピクロスをさらに深く読むための関連書籍
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短い教説だけでなく、書簡全体や古代哲学の背景を読むと、エピクロスがいう快楽と平静の意味がより明確になります。
不安と心の平静を別の角度から考えるには、セネカの名言40選が役立ちます。欲望や心の扱いを比較したい方には、ブッダの名言30選もおすすめです。
まとめ|足りないものより、今ある平静へ戻る
エピクロスの30の言葉は、幸福を遠い成功や強い刺激の中ではなく、苦痛や恐れが静まり、必要なものが足りている状態の中に見いだします。快楽を選ぶことは、目先の欲望に従うことではなく、その後に残る平静まで考えて選ぶことです。
死への不安、将来への心配、終わりのない欲望は、頭の中で大きくなりやすいものです。そんなときは、変えられない未来を考え続けるより、今日必要なものを一つ確認し、余分な一手を減らす方が心を守れます。
すべてを手に入れなくても、穏やかに生きる条件は少しずつ整えられます。今ある安心を一つ見つけ、信頼できる人との時間を大切にすることから始めてみてもよいでしょう。
出典・参考文献
参考:Epicurus, Principal Doctrines, translated by Robert Drew Hicks; Epicurus, Letter to Menoeceus, preserved in Diogenes Laertius, Lives of Eminent Philosophers, Book X, sections 122–135; The Internet Classics Archive.