創作を続けるための節度と勇気
21. 悪用と本来の目的を分ける
On sépare toujours le mauvais usage d’avec l’intention de l’art.
人はいつでも、悪い用い方と、その技芸が本来めざすものとを分ける。
出典:『タルチュフ』序文
モリエールの擁護は、演劇なら何でもよいという主張ではありません。質の悪い作品を認めつつ、それを理由に演劇全体を否定しないという区別です。
制度や技術を評価するときも、目的、設計、実際の運用を分けると議論が明確になります。失敗例から改善点を学び、価値ある使い方まで捨てない姿勢です。
22. 感情は消すより整える
Je ne sais s’il n’est pas mieux de travailler à rectifier et adoucir les passions des hommes que de vouloir les retrancher entièrement.
人間の情念をすべて切り捨てようとするより、正して和らげるほうがよいのではないか。
出典:『タルチュフ』序文
人は感情を持たない存在にはなれません。モリエールは、完全な無感動を理想にするより、情念の向きと強さを整えるほうが人間に即していると考えます。
怒りや欲望を否認すると、それらは見えないところで行動を支配します。感じたことを認め、どう表現するかを選ぶほうが、現実的な節度につながります。
23. 人間には健全な楽しみが必要である
Les hommes aient besoin de divertissement, je soutiens qu’on ne leur en peut trouver un qui soit plus innocent que la comédie.
人間に気晴らしが必要なら、喜劇ほど無害なものは見つけがたいと私は主張する。
出典:『タルチュフ』序文
娯楽を道徳の敵とみなす考えに対して、モリエールは休息の必要を認めます。笑う時間は責任から逃げることではなく、社会を別の角度から見るための余白です。
何が健全な楽しみかは、その影響まで見て判断すべきでしょう。人を消耗させる刺激ではなく、心をほぐし、視野を広げる楽しみは生活を支えます。
24. 喜劇の仕事は、楽しませながら人を正すこと
Le devoir de la comédie étant de corriger les hommes en les divertissant.
喜劇の務めは、人を楽しませながらその行いを正すことである。
出典:『タルチュフ』についての第一請願書
この言葉はモリエールの創作観をもっとも簡潔に示します。教訓だけでも、笑いだけでもなく、両方を同時に成立させることが喜劇の仕事でした。
伝えたい内容が重いほど、受け手が近づける形を考える必要があります。分かりやすさや楽しさは、内容を軽くすることではなく、届くための設計になりえます。
25. 人は自分を基準に他者を判断し、だまされる
Ils sont d’autant plus prompts à se laisser tromper qu’ils jugent d’autrui par eux-mêmes.
彼らは他人を自分と同じだと判断するために、かえってだまされやすい。
出典:『タルチュフ』についての第二請願書
誠実な人は、相手も同じ基準で行動すると考えがちです。その善意は大切ですが、悪意や利害の存在を見落とすと利用されることがあります。
信頼と検証は両立します。相手を最初から疑うのではなく、重要な約束ほど記録や事実で確かめる。自分の心を物差しにしすぎないことが、善意を守ります。
関連書籍
モリエールの言葉は、序文だけでなく、人物がぶつかり合う舞台全体で読むといっそう立体的になります。
まとめ
モリエールの25の言葉は、笑いを単なる気晴らしではなく、人間の欠点を映し、権威の仮面を外す技法として捉えています。同時に、批評の対象を見分け、悪用と本来の目的を区別する慎重さも失っていません。
彼の喜劇が長く上演されるのは、人間を理想化せず、それでも感情を整え直せる存在として見ているからでしょう。鋭さと楽しさを両立させる姿勢は、同じく舞台を通して人間を描いたシェイクスピアや、機知で常識を反転させたオスカー・ワイルドの言葉を読む手がかりにもなります。
出典・参考文献
- Project Gutenberg『Œuvres complètes de Molière, Tome 3』(『タルチュフ』序文・三つの請願書・『恋は医者』読者へ)
- Project Gutenberg「Books by Molière」
- ヴェルサイユ宮殿「Molière」

