明日の予定が気になって、布団に入ってからも時計を見てしまう。あるいは、まだ眠りたくない夜もあります。眠りは毎日のことなのに、思いどおりにはできません。
ここでは、詩や小説から「眠り」を描いた6つの言葉を選びました。眠れない人への説教でも、睡眠法の紹介でもありません。眠りへの願い、後悔、休む権利、子どもの気持ち、夜の静けさを、それぞれの作品の文脈に沿って読みます。外国語の日本語訳はすべて当サイト訳です。
眠れない夜、焦ってしまうとき
1.ワーズワース――眠りは一日と一日のあいだにある
来たれ、日と日の間を隔てる祝福されたものよ。新しい思いと喜ばしい健やかさを生む、親しい母よ。
Come, blessed barrier betwixt day and day,
Dear mother of fresh thoughts and joyous health!ウィリアム・ワーズワース「To Sleep」(1807年刊『Poems, in Two Volumes』第1巻、当サイト訳)/原文
詩の語り手は、羊の群れや雨音を思い浮かべても眠れません。昨夜も、その前の二晩も同じだったと語り、最後に眠りへ呼びかけます。眠りを「新しい思いの母」と呼ぶのは、疲れたまま朝を迎えたくない切実な願いからでしょう。
眠れない夜には、眠ろうとする努力そのものが苦しくなることもあります。この詩は眠りを意志で獲得できるとは言っていません。夜をすぐに「失敗した時間」と採点しないこと。そこから読み取れるのは、まずその程度の静かな視点です。
2.シェイクスピア――心配のほつれを繕う眠り
眠りとは、心配ごとでほつれた糸を繕うもの。
Sleep that knits up the raveled sleave of care,
シェイクスピア『マクベス』第2幕第2場、マクベスの台詞(当サイト訳)/Folger Shakespeare Library 原文
この一節だけを切り取ると、やさしい安眠の格言に見えます。しかし舞台では、王を殺した直後のマクベスが、もう眠れなくなるという声を聞いたように感じています。眠りのよさを語っているのは、まさにそれを失う恐怖に襲われた人物です。
「ほつれを繕う」という比喩は、夜には昼の緊張から離れる余地がほしい、という読者の気持ちに重なります。ただし、この台詞は睡眠の医学的効果を実証するものではありません。罪悪感を抱える劇中人物の言葉だと知ると、響き方も変わります。
休むことに後ろめたさがあるとき
3.セルバンテス――眠りのあいだは身分も重荷も離れる
眠っているあいだ、私には恐れも希望も、苦労も名誉もありません。
en tanto que duermo, ni tengo temor, ni esperanza, ni trabajo ni gloria;
セルバンテス『ドン・キホーテ』第二部第68章、サンチョ・パンサの台詞(当サイト訳)/Biblioteca Virtual Miguel de Cervantes 原文
眠れずにいるドン・キホーテに対して、従者サンチョは睡眠をたたえます。続く言葉では、眠りは王と羊飼い、賢者と愚者を等しくするものだとも言います。大げさで滑稽な比喩に、サンチョらしい生活感覚が表れています。
肩書きや評価から一時的に離れられる時間は、人間にとって大切です。今日は十分に働けなかった、と考えてしまう夜でも、眠る資格を成果で測る必要はありません。もちろん、サンチョは「寝れば問題がなくなる」と断言しているわけではありません。夜明けには現実が戻ると知りながら、それでも休もうとするのです。
4.スティーヴンソン――まだ遊びたい子どもの就寝時刻
明るいうちに、もう寝なければならない。
I have to go to bed by day.
ロバート・ルイス・スティーヴンソン「Bed in Summer」『A Child’s Garden of Verses』(1885年、当サイト訳)/Project Gutenberg 原文
夏の夕方、鳥はまだ動き、大人たちの足音も聞こえるのに、子どもは寝床へ向かわなければなりません。詩の結びでは、こんなに青空がきれいで、もっと遊びたいのに、と訴えます。
眠りはいつでも歓迎されるとは限りません。楽しい時間を切り上げる寂しさも、まっとうな感情です。休息の価値を説くとき、眠りたくない人の気持ちまで否定する必要はないでしょう。いま終えたくないものがある夜には、その惜しさを認めるだけでも言葉の受け取り方が変わります。
眠る人々と、夜の不思議を見つめる
5.ホイットマン――夜はさまざまな人を包み込む
夜は彼らのすみずみに満ち、彼らを包み込む。
The night pervades them and infolds them.
ウォルト・ホイットマン「The Sleepers」『Leaves of Grass』(1882年版第1節、当サイト訳)/1882年版原文
語り手は夢のように歩き回り、眠る子ども、夫婦、病や苦難の中にいる人々まで見つめていきます。夜の描写は穏やかな場面だけでできていません。社会の違いも、人生の明暗も、詩の視野から追い出されないのです。
眠りを誰もが同じように楽しめるとは限らない。それでも一人ひとりの夜がある。そんな幅広いまなざしが、この詩にはあります。寝静まった街を思うとき、自分以外にもそれぞれの一日を終えた人がいると想像する。孤独の中にも、ささやかなつながりが見えてきます。
6.エミリー・ディキンソン――目を閉じることだけが眠りなのか
分別ある人々にとって、眠りとは目を閉じることだとされている。
Sleep is supposed to be,
By souls of sanity,
The shutting of the eye.エミリー・ディキンソン「Sleep is supposed to be」1890年刊詩集掲載版(当サイト訳)/原文
この詩は、眠りと朝を普通の言葉で定義するところから始まり、やがて「永遠」の彼方の夜明けへ進みます。単なる睡眠の説明ではなく、生と死、その先を想像する宗教的・詩的な問いを含んでいます。
目を閉じればすべて片づくわけではないし、夜が明ければいつも気持ちが変わるとも限りません。それでも、私たちは毎晩、昼間の意識をいったん手放します。眠りは当たり前の習慣であると同時に、不思議な営みでもあるのだと気づかされます。
今夜、言葉をどう受け取るか
6つの作品は、眠りを同じ意味で語っていません。ワーズワースは眠りを待ち望み、マクベスは罪の重さから眠りを恐れ、サンチョは眠りを身分のない時間として愛します。スティーヴンソンの子どもは寝床に行きたがらず、ホイットマンは眠る人々を見渡し、ディキンソンは眠りの意味そのものを問い直します。
寝る前にできることを一つ選ぶなら、明日に回せる用事を紙に一行だけ書いて置くことでも、そっと灯りを落とすことでもよいでしょう。「眠るために正しく行動しなければ」と新しい課題を増やさないことも大切です。眠れない状態が続き、日中の生活に支障がある場合は、名言だけで解決しようとせず医療機関に相談してください。
頑張ることと休むことの関係を考えたいときは休息の名言集へ、一日の終わりを静かに過ごしたいときは夕暮れ・一日の終わりの名言集へ。作品をさらに読みたい方にはシェイクスピアの名言やワーズワースの名言もあります。
出典・参考文献
- Wordsworth, “To Sleep,” Poems, in Two Volumes, vol. 1 (1807)
- Shakespeare, Macbeth, Act 2, Scene 2, Folger Shakespeare Library
- Cervantes, Don Quijote, segunda parte, capítulo LXVIII, Biblioteca Virtual Miguel de Cervantes
- Stevenson, “Bed in Summer,” A Child’s Garden of Verses, Project Gutenberg
- Whitman, “The Sleepers,” Leaves of Grass (1882)
- Dickinson, “Sleep is supposed to be,” published poems

