岡本太郎は、絵画や彫刻だけでなく、言葉によっても戦後日本の常識を揺さぶりました。強烈な断言の奥には、人生を他人任せにせず、自分の感覚で世界に向き合おうとする思想があります。
ここでは、川崎市岡本太郎美術館と岡本太郎記念館の公式資料、本人の著作、NHKの放送記録を中心に、出典を確認できる短い言葉を30件選びました。著作権保護中の文章は、意味が完結する必要最小限の範囲にとどめています。
芸術家の言葉としてだけでなく、迷いながら選び、つくり、他者と出会うための言葉として読んでみてください。関連する葛飾北斎の名言やピカソの名言にも、表現を生涯の課題にした人の異なる声が響いています。
挑戦を選ぶ
1. 困難な方へ進む
私は、人生の岐路に立った時、いつも困難な方の道を選んできた。
出典:『強く生きる言葉』(イースト・プレス、2003年)
岡本太郎の「困難」は、苦しさを美化する言葉ではありません。安全な答えに自分を合わせるより、自分の生を引き受けられる方を選ぶという姿勢です。
迷いが消えてから進むのではなく、迷いを抱えたまま選ぶ。その決断が、自分の輪郭を少しずつつくります。
2. 怖さの中へ飛び込む
怖かったら怖いほど、逆にそこに飛び込むんだ。
出典:『強く生きる言葉』(イースト・プレス、2003年)
恐怖は、避けるべき危険だけでなく、自分が本当に大切にしているものの所在も知らせます。怖さの強さが、関心の深さを映すこともあります。
もちろん無謀さとは違います。準備を整えたうえで、怖さだけを理由に退かないことが、挑戦を現実の行動へ変えます。
3. 逃げずに立ち向かう
逃げない。はればれと立ち向かう、それがぼくのモットーだ。
出典:『強く生きる言葉』(イースト・プレス、2003年)
「はればれと」という副詞が大切です。歯を食いしばるだけでなく、結果への執着を少し手放し、正面から状況を受け止めようとしています。
勝敗よりも、どう向き合ったかが自分の中に残ります。苦しいときほど、姿勢を選び直す余地は失われません。
4. まず手を動かす
なんでもいいから、まずやってみる。それだけなんだよ。
出典:『強く生きる言葉』(イースト・プレス、2003年)
考えることは大切ですが、考えだけでは作品も経験も生まれません。小さな着手は、頭の中にはなかった次の問題や可能性を見せます。
最初から正解を狙わず、試し、見直し、また試す。創造はその反復のなかで具体的になります。
5. 自分自身という壁
壁は自分自身だ。
出典:『壁を破る言葉』(イースト・プレス、2005年)
外の条件に見える壁の一部は、「失敗してはいけない」「人にどう見られるか」という内側の判断から厚くなります。岡本はその構造を短い言葉で突いています。
自分を責めるためではありません。壁の一部が自分にあるなら、今日変えられる部分も自分の側にあるということです。
自分を直視し、自由に生きる
6. ありのままを見る強さ
自分の姿をありのまま直視する、それは強さだ。
出典:『壁を破る言葉』(イースト・プレス、2005年)
強さは、弱点を隠すことではありません。できていることと、できていないことを誇張せず見る力です。
自己認識が正確になるほど、次の一歩も現実的になります。直視は痛みを伴いますが、変化の出発点にもなります。
7. 未熟なまま生きる
ほんとうに生きるということは、いつも自分は未熟なんだという前提のもとに平気で生きることだ。
出典:『自分の中に毒を持て』(青春出版社、1993年)
未熟さを認めることは、自己否定ではありません。完成したふりをやめ、学び続ける余地を自分に許すことです。
「平気で」という語には、恥を恐れず試す軽やかさがあります。未完成だからこそ、出会いや経験によって変われます。
8. 自分の歌を歌う
他人が笑おうが笑うまいが、自分で自分の歌を歌えばいいんだよ。
出典:『強く生きる言葉』(イースト・プレス、2003年)
評価は自分では制御できません。岡本は、他人の反応よりも、自分が表現する責任を引き受けるよう促します。
独りよがりになることとは違います。人の声を聞きながらも、最後にどの音を出すかは自分で決める。その覚悟が表現を固有のものにします。
9. 自由に生きる
人間は男でも女でも、本当に「生きる」ためには、自由でいきなきゃいけない。
出典:『愛する言葉』(イースト・プレス、2006年)
ここでいう自由は、好き勝手に振る舞うことではありません。性別や役割の型だけで自分を決めず、自分の生を自分で選ぶことです。
自由には責任が伴います。それでも既成の枠を疑うことで、関係も生き方も、より誠実な形へ組み直せます。
10. 嫌われることを恐れない
自分の価値観を持って生きるってことは、嫌われてもあたりまえなんだ。
出典:『自分の中に毒を持て』(青春出版社、1993年)
自分の基準を持てば、すべての人と一致することはありません。岡本は、その摩擦を失敗ではなく、自立の自然な代償として捉えます。
対立を求める必要はありません。ただ、好かれるために大切な判断まで手放さないこと。違いを認める姿勢は、他者の自由を尊重することにもつながります。
創造を始める
11. 技術は後からついてくる
自分が何をやりたいか、何を伝えたいかが分かっていたら、技術は後からついてくる。
出典:『自分の中に毒を持て』(青春出版社、1993年)
技術を軽視する言葉ではありません。目的のない技巧より、まず何を表したいのかという切実さが学びの方向を定める、という順序の話です。
伝えたいものが明確なら、足りない技術も具体的に見えます。必要に迫られた練習は、抽象的な上達願望より粘り強く続きます。
12. 下手を楽しむ
下手のほうがいいんだ。笑い出すほど不器用だったら、それはかえって楽しいじゃないか。
出典:岡本太郎記念館公式サイト掲載の言葉
上手さの基準に従うほど、失敗を避ける無難な形に寄りやすくなります。岡本は不器用さを、まだ型に回収されていない可能性として見ます。
下手でも本気で出した線には、その人の速度や迷いが刻まれます。整っていないものを楽しむ感覚は、創造の入口を広げます。
13. 自分を創造する
きみはあなた自身を創造していると思いなさい。
出典:岡本太郎記念館公式サイト掲載の言葉
人生は、完成済みの自分を発見するだけの過程ではありません。選択と行動を通じて、まだいない自分をつくっていく時間でもあります。
過去の性格や評価は材料であって、設計図ではありません。小さな選び直しが、自分という作品を更新します。
14. でたらめを試す
でたらめをやってごらん。
出典:『壁を破る言葉』(イースト・プレス、2005年)
岡本の「でたらめ」は、無責任さの勧めではありません。身についた常識や予測可能な手順をいったん外し、未知の組み合わせを試すことです。
本当に枠を外すのは意外に難しいものです。いつもの正解から少し離れる実験が、硬くなった発想を動かします。
15. 創らなければ退屈だ
創らなければ、世界はあまりにも退屈だ。
出典:『原色の呪文―現代の芸術精神』(講談社)
世界を受け取るだけでなく、自分から形を加える。創作は特別な職業に限られず、料理、文章、仕事の工夫にも宿ります。
小さくても何かをつくると、世界との関係が受動から能動へ変わります。退屈を壊すのは、刺激の多さより参加の深さです。
芸術を爆発させる
16. 芸術は爆発だ
芸術は爆発だ。
出典:『自分の中に毒を持て』(青春出版社、1993年)
有名なこの言葉の「爆発」は、派手さだけを意味しません。内側にある矛盾や生命力が、既成の形を突き破って外へ出る瞬間です。
爆発には蓄積があります。観察し、考え、迷い続けたものが一気に形になる。短い言葉の奥には、長い制作の時間があります。
17. きれいさを超える
芸術は、きれいであってはならない。
出典:『今日の芸術』(光文社、1954年)
岡本は美しさを否定したのではなく、「きれい」という安心できる評価に芸術を閉じ込めることを拒みました。
心を揺さぶるものは、ときに不穏で、理解しにくく、居心地が悪いものです。その抵抗感が、見慣れた世界を見直す契機になります。
18. 絵画をゼロから始める
絵画の石器時代は終わった。ほんとうの絵画は私から始まる。
出典:『私の現代芸術』(新潮社、1963年)
誇張に見える宣言ですが、権威に従わずゼロから始める決意が込められています。伝統を知らないのではなく、伝統を絶対視しない姿勢です。
新しい表現は、許可を待っていても生まれません。自分が最初の責任者になる覚悟が、時代に別の視点を差し出します。
19. 観ることと創ること
真の観賞とは同時に創るということでなければならない。
出典:『青春ピカソ』
鑑賞は、作品から答えを受け取るだけではありません。見る人が記憶や経験を働かせ、意味をつくる行為でもあります。
だから同じ作品でも、出会う時期によって見え方が変わります。観ることに参加すると、芸術は遠い知識ではなく、自分の経験になります。
20. 対極を引き裂いたまま持つ
二つの極を引き裂いたまま把握する。
出典:「対極主義」についての岡本太郎の言葉(岡本太郎記念館公式略歴)
合理と情熱、伝統と前衛。どちらか一方に整理すれば分かりやすくなりますが、岡本は矛盾を消さずに抱える道を選びました。
創造は、対立を早く解決するより、その緊張から新しい形を生むことがあります。割り切れなさに耐えることも思考の力です。
