日常の風景から生き方を考える言葉
21. 一つの墓の奥に一つの人生がある
この一つ一つの墓の奥にはながい人生がかくれている筈です。
出典:遠藤周作「墓地での回想」(書き下ろし原稿/心のともしび)
墓石に刻まれる情報はわずかでも、その人には喜び、失敗、誰にも話さなかった思いを含む長い時間がありました。
目の前の人にも見えていない背景があります。短い接触だけで相手を決めつけない態度は、生者へのまなざしにもつながります。
22. 生を終えたあとの静寂
その静寂は生きていることが完了した瞬間の静寂さでしょう。
出典:遠藤周作「墓地での回想」(書き下ろし原稿/心のともしび)
墓地の静けさを、恐怖だけでなく「完了」として受け止めた一文です。死者の沈黙は一つの時間が閉じられたことを告げます。
死を美化するのではなく、まだ完了していない今に何を残し、誰とどう関わるかを考えさせる言葉です。
23. 青いうちにもぎ取られたくない
少なくとも、まだ青いうちに、私は枝からもぎとられないことだけを願う。
出典:遠藤周作「墓地での回想」(書き下ろし原稿/心のともしび)
自分を果実にたとえ、まだ熟していないうちに人生が終わらないよう願う言葉です。生きながら少しずつ成熟したいという率直な思いです。
成熟の時期は誰にも分かりません。だからこそ、今日できる学びや対話を先送りしないことが大切になります。
24. 踏んだ人の痛みを見る
しかし、私はこれをふんだ人の足も随分つらかったと思います。
出典:遠藤周作「踏絵の話」(書き下ろし原稿/心のともしび)
遠藤は踏絵を、信仰を守った強者を称える道具としてだけ見ません。恐怖のなかで踏まざるを得なかった弱い人の痛みに想像力を向けます。
行為の責任を消すのではなく、断罪する前に置かれた圧力と苦悩を考える。遠藤文学の中心にある弱者側からの信仰理解です。
25. 時代が変わってもユーモアは残る
どんなに世紀が変っても人間のユーモアはそう変らない。同じようなものだ。
出典:遠藤周作「ある日曜日」(書き下ろし原稿/心のともしび)
技術や制度が変わっても、人が可笑しさを感じ、緊張をほぐす仕方には通じるものがあります。ユーモアは時代を越える共通語です。
深刻さに飲み込まれないために笑いを残す。井伏鱒二の飄々とした文章や太宰治の自嘲にも通じる、人間の弱さを抱える知恵です。
井伏鱒二や太宰治の言葉と読み比べると、弱さを描く文体の違いも見えてきます。
関連書籍
遠藤周作の言葉は、随筆と小説を往復すると立体的に見えてきます。
まとめ|弱さを隠さずに人間を見る
遠藤周作の25の言葉に共通するのは、強く正しい人間だけを基準にしない姿勢です。涙の理由が分からないとき、夢が崩れたとき、信仰を守れなかった人を見るときにも、彼は弱さの背後にある事情と痛みを想像しました。
弱さを認めることは、行動を諦めることではありません。他者を決めつけず、夢を築き直し、小さな思いやりを選ぶための出発点です。
出典・参考文献
- 心のともしび「遠藤周作」著者別アーカイブ(本人書き下ろし原稿)
- 長崎市 遠藤周作文学館
- 長崎市「遠藤周作略年譜」

