君民共治と法の支配
21. 権限の所在で政体を見分ける
When public authority rests with the ruler it is called monarchy; when it rests with the people it is called democracy; when ruler and people hold it together it is shared government.
公的権限が君主にあるものを君主政治、人民にあるものを民主政治、君主と人民がともに持つものを君民共治という。
出典:大久保利通「立憲政体に関する意見書」(明治6年11月)、議会政治社編輯部『日本憲政基礎史料』pp.106–122(旧字体・旧仮名遣いを現代化、英訳は当サイト)
大久保は政体を名称ではなく、実際に誰が権限を持つかで定義しています。制度の看板より、意思決定と監督の構造を見る考え方です。
組織図だけで判断せず、予算、採用、停止の三つを誰が決められるかを見ると、実際の権力配置が分かります。
22. 君民共治は互いの公的権利を守る
Shared government exists so that both those above and those below may preserve and fully exercise their public authority and rightful claims.
君民共治は、上に立つ者と下にいる者が、それぞれの公的権限と正当な権利を保全し、十分に働かせるためにある。
出典:大久保利通「立憲政体に関する意見書」(明治6年11月)、議会政治社編輯部『日本憲政基礎史料』pp.106–122(旧字体・旧仮名遣いを現代化、英訳は当サイト)
一方が他方を消す制度ではなく、双方の役割を法で成立させる構想です。権利の保障と統治能力を対立させず、両立させようとしています。
役割分担を決めるときは、上位者の決定権だけでなく、現場側が情報を返し異議を示す権利も明記してください。
23. 合議によって動かしにくい国法を定める
Ruler and people deliberate together to establish firm and unshakable national authority, and all affairs are decided by reference to it.
君主と人民がともに議し、確固として動かし難い国の基本権限を定め、すべての政治判断をそれに照らして行う。
出典:大久保利通「立憲政体に関する意見書」(明治6年11月)、議会政治社編輯部『日本憲政基礎史料』pp.106–122(旧字体・旧仮名遣いを現代化、英訳は当サイト)
合議は毎回すべてを話し合うことではありません。共同で基本規則を定め、その後の判断を同じ基準へ結びつけることに意味があります。
共通原則が先に定まると、個別案件の合議は速くなり、判断の一貫性も保ちやすくなります。
24. 根本法が役人の恣意を抑える
This is called fundamental law or a rule of government: officials must not dispose of public affairs by arbitrary private judgment.
これを根本法、または政規という。百官有司は、独断と私的判断によって事務を処理してはならない。
出典:大久保利通「立憲政体に関する意見書」(明治6年11月)、議会政治社編輯部『日本憲政基礎史料』pp.106–122(旧字体・旧仮名遣いを現代化、英訳は当サイト)
法の支配とは、国民だけでなく行政を担う者も規則に従うことです。大久保は、制度を官僚の判断を支えると同時に制約する基準と見ています。
担当者ごとに結論が変わる業務は、判断例を集めて共通基準を一枚にまとめるところから改善できます。
25. 民力と政権が並んで進む時に開化は実る
When administration follows a consistent standard without instability, and the strength of the people and political authority advance side by side, civilization becomes real rather than empty.
施行に一貫した基準があり、変化散漫の患いがなく、民の力と政治の権限が並んで進むなら、開化は空虚なものではなくなる。
出典:大久保利通「立憲政体に関する意見書」(明治6年11月)、議会政治社編輯部『日本憲政基礎史料』pp.106–122(旧字体・旧仮名遣いを現代化、英訳は当サイト)
国家の近代化は、政府だけが強くなることでも、民間へすべてを任せることでもありません。行政の安定と国民の能力がともに育つ時、制度は実質を持ちます。民の力と公共的な経済を結ぶ考えは、渋沢栄一の名言へもつながります。
行政の安定と人々の自立が同時に進むことが、形式だけではない近代化の条件になります。
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大久保利通と明治の制度設計を読み直す
人物伝、明治維新史、立憲政治の研究を読み比べると、強権的な政治家という一面的な像だけでなく、法と合議を構想した側面も見えてきます。
まとめ
大久保利通の意見書が示すのは、外国の制度をそのまま採用するのでも、古い仕組みを無条件に守るのでもない姿勢です。君主政治と民主政治の長所と危険を比較し、日本の土地、風俗、人情、時勢に合う政体を設計しようとしました。
中心にある「君民共治」は、権力者と人民の双方を法の下に置き、公的権限と権利を調整する構想です。現代に置き換えれば、人物の善意へ依存せず、判断基準、説明責任、異議申立ての仕組みを整えることが、安定した組織と社会をつくるという教えになります。
出典・参考文献
- 国立国会図書館「大久保利通の政体意見」
- 国立国会図書館サーチ『日本憲政基礎史料』
- 国立国会図書館 次世代デジタルライブラリー『日本憲政基礎史料』
- 国立国会図書館リサーチ・ナビ「大久保利通関係文書(所蔵)」
採用文は、同書所収「第十七 大久保利通の立憲政体に関する意見書」の連続する本文から選びました。原文の意味を変えない範囲で、旧字体、旧仮名遣い、句読点を現代の読みやすい表記へ整えています。