仕事や勉強で、やるべきことは分かっているのに「自分には無理かもしれない」と手が止まることがあります。一度失敗したあと、前と同じ課題に取りかかるのが怖くなることもあります。
このような「必要な行動を自分はできそうか」という見通しを、心理学では自己効力感(self-efficacy)と呼びます。自分の価値を丸ごと肯定することでも、成功を強く信じ込むことでもありません。特定の課題や状況で、必要な行動を実行できるという判断です。
この記事では、自己効力感の意味、自己肯定感・結果期待との違い、Banduraが整理した4つの情報源、研究から言えることと限界、日常での育て方を解説します。
※自己効力感は、能力・機会・支援・体調・環境の代わりにはなりません。うまくいかないことを本人の「信じる力」の不足だけで説明しないことが大切です。
この記事の結論
自己効力感は「私は何でもできる」という万能感ではなく、「この状況で、この行動なら試せそうだ」という具体的な見通しです。言い聞かせだけで高めようとせず、実行可能な一歩、結果の記録、手本、具体的な助言、心身と環境の調整を組み合わせます。
自己効力感とは?「必要な行動をできそう」という見通し
Albert Banduraは1977年の論文で、ある結果を生み出すために必要な行動を自分がうまく実行できるという期待を、効力期待として整理しました。現在、一般に自己効力感と呼ばれる概念の土台です。論文の書誌情報はPubMedとDOIで確認できます。
人全体ではなく、課題や状況に結びつく
自己効力感は、本来、行動と状況を具体的にして考えます。同じ人でも、「初対面の相手に電話をかけるのは難しいが、文章で問い合わせるならできそう」「数学の証明は不安だが、計算問題を10分解くなら始められる」のように、課題によって見通しは変わります。
そのため、「私は自信がない」と人全体を一語で評価するより、次の三つに分けるほうが役立ちます。
- 何を:どの行動をするのか
- どの状況で:時間、場所、相手、障害は何か
- どの程度:どこまでなら実行できそうか
身近な例
- 会議で完璧に説明する自信はないが、質問を一つすることならできそう
- 毎日一時間は難しいが、帰宅後に教材を開いて一問解くことならできそう
- 落ち込まないことは無理でも、失敗の原因を一つ書き、相談先を探すことならできそう
ここで大切なのは、気分を無理に明るくすることではありません。次に取る行動を、現実に照らして見積もることです。
自己肯定感・自信・結果期待との違い
日常語の「自己肯定感」は広い意味で使われ、研究上の定義も一つではありません。ここでは比較のため、自己価値に関する感情的な評価を扱う自尊感情(self-esteem)に近い意味として整理します。
| 概念 | 中心となる問い | 例 |
|---|---|---|
| 自己効力感 | 必要な行動を実行できるか | 緊張しても発表の最初の一分を話せそうだ |
| 自己肯定感・自尊感情 | 自分を価値ある存在としてどう評価するか | 失敗しても自分全体の価値はなくならない |
| 一般的な自信 | 広い意味で自分や結果をどう見込むか | たぶん何とかなると思う |
| 結果期待 | その行動をすれば、望む結果につながるか | 練習すれば発表が分かりやすくなると思う |
「練習すれば上達する」と思っていても、「自分は練習を続けられない」と感じることがあります。これは結果期待は高く、自己効力感は低い状態です。反対に、行動はできても、制度や相手の判断によって結果が得られないこともあります。
米国国立がん研究所の研究用解説は、自己効力感を自己概念、自尊感情、統制の所在などと区別し、将来の行動に向いた、能力に関する見通しとして説明しています。ただし同ページは現在「更新されていない参考資料」と明記されているため、概念の整理に限って参照します。詳しくはNCIのSelf-Efficacy解説をご覧ください。
自己効力感を形づくる4つの情報源
Banduraの理論では、自己効力感の判断材料は大きく四つに整理されます。1977年の論文では、遂行達成、代理経験、言語的説得、情動的喚起という表現が使われました。後の解説では、達成経験、社会的モデリング、社会的説得、生理的・感情的状態など、訳語が異なる場合があります。
1.達成経験|実際にやれたという情報
自分で行動し、課題をこなした経験です。大きな成功だけを数える必要はありません。「資料を開いた」「質問を一つ送った」「前回より一工程進んだ」のように、目標に関係する行動を事実として捉えます。
ただし、簡単すぎて学びがない課題を繰り返すことや、偶然の結果を「能力の証明」とみなすこととは違います。少し努力が必要で、結果を確かめられる課題を選び、何ができたかを記録します。失敗後の見直し方は、失敗から立ち直る名言集でも、人格評価と修正可能な行動を分けて紹介しています。
2.代理経験|他者の取り組み方から学ぶ
自分に近い条件の人が、どのように課題へ取り組み、困難を調整したかを見ることです。完成した成功だけを見るより、途中の工夫、練習、失敗からの修正が見える手本のほうが、次の行動を考える材料になります。
一方、専門家の華やかな結果だけを見て「自分には無理だ」と比較するなら、役立つ手本にはなりにくいでしょう。能力の順位ではなく、使える手順を探します。
3.言語的・社会的説得|具体的な助言とフィードバック
他者から「ここまではできている」「次はこの動作を試せる」と伝えられることです。「あなたなら絶対できる」という根拠のない励ましより、観察した事実と次の行動が結びついた助言のほうが実用的です。
励ましだけで技能や機会が生まれるわけではありません。必要なら、教え方を変える、練習時間を確保する、作業を分担するなど、行動可能な支援と組み合わせます。
4.生理的・感情的状態|緊張や疲労をどう受け取るか
動悸、緊張、疲労、気分なども「できそうか」を判断する情報になります。ただし、緊張は必ず能力不足を意味しません。準備が必要という合図の場合もあれば、重要な場面に反応しているだけの場合もあります。
睡眠不足、痛み、強い不安などがあるなら、解釈を変えるだけで押し切らず、休む、環境を整える、支援を求めることが先です。心身の状態を本人の考え方だけの問題にしないようにします。
研究では何が分かっているか
自己効力感と行動は、一方向だけではない
Banduraの理論は、自己効力感が課題の選択、努力、粘り強さなどに関わる可能性を示しました。しかし、「自己効力感を高めれば、必ず成績が上がる」とまでは言えません。高い自己効力感を持つ人の成績が高くても、過去の成功が自己効力感を高めた可能性が残るからです。
SitzmannとYeo(2013)は、同じ人の中で自己効力感と成績が時間とともにどう変わるかを扱った38研究をメタ分析しました。自己効力感とその後の成績の補正相関は、時間に伴う直線的な上昇を統制すると ρ = .06で有意ではありませんでした。一方、過去の成績から自己効力感への関係は、同じ統制後も ρ = .30で正の関係が残りました。論文はSitzmann & Yeo(2013)で確認できます。
これは自己効力感が無意味だという結果ではありません。自己効力感と成績は相互に影響し得ますが、少なくとも同分析では、実際にできた経験が次の「できそう」を育てる方向が強かったと読めます。また、分析対象は反復測定された課題成績であり、人生全体、臨床的な回復、あらゆる学習場面へそのまま一般化はできません。
相関を「原因」にしない
高い自己効力感と望ましい行動が関連していても、技能、過去の経験、周囲の支援、利用できる時間などが両方に影響している場合があります。「自信があるから成功した」「自信がないから失敗した」と一つの原因へ縮めないことが重要です。
自己効力感を育てる6つの方法
1.「何ができないか」を一つの行動へ絞る
「仕事ができない」「勉強に向いていない」という全体評価をやめ、止まっている行動を一つ書きます。たとえば「上司へ途中案を送る」「英単語を10個確認する」です。評価の単位が小さくなると、必要な技能や支援も見つけやすくなります。
2.少し努力すれば達成できる課題にする
簡単すぎず、今の技能と体調で手を伸ばせる課題を選びます。大きな目標は、「開始する」「一工程終える」「結果を確認する」に分けます。努力量だけを増やすのではなく、方向・方法・負荷を見直す考え方は、努力の名言集にもまとめています。
3.気分ではなく、行動の事実を記録する
一日の終わりに、「自信が出たか」ではなく「何をしたか」「何が助けになったか」「次に何を変えるか」を一行ずつ残します。成功だけでなく、途中で止まった理由も設計を直す情報です。
4.自分に近い手本から、手順を借りる
経験、使える時間、環境が近い人の方法を観察します。結果だけでなく、どこで迷い、何を小さくし、誰に助けを求めたかを見ます。そのまま真似るのではなく、自分の条件に合う一手だけを借ります。
5.励ましを、具体的な支援に変える
助言を求めるときは、「できますか」ではなく、「最初の一工程を見て、直す点を一つ教えてください」のように頼みます。支える側も、人格を褒めるだけでなく、観察できた行動と次の選択肢を伝えます。
6.本人の内面だけでなく、環境を変える
道具がない、指示が曖昧、仕事量が過大、差別やハラスメントがあるといった問題は、前向きな考え方だけでは解決できません。期限、担当、練習機会、休息、相談先を調整します。自己効力感を育てることと、障害を取り除くことは別々ではありません。
1分でできる「次の一手」の整理
- いま止まっている行動を一つ書く
- 今日できる大きさまで小さくする
- 終えたと分かる条件を決める
- 必要な支援を一つ書く
この1分という長さや手順は、研究で検証された治療プログラムではなく、本記事の整理例です。自分を急かすためではなく、課題を具体化するために使ってください。
仕事・勉強・失敗後の具体例
| 場面 | 全体評価 | 自己効力感を扱う問い |
|---|---|---|
| 仕事 | 私は説明が下手だ | 結論と根拠を一枚に整理し、同僚に確認を頼めるか |
| 勉強 | 数学は向いていない | 例題を見ながら一問解き、分からない箇所に印をつけられるか |
| 失敗後 | また失敗するに決まっている | 前回と同じ条件は何か。今回は一つ何を変えられるか |
| 体調不良 | 怠けている | 今日は休息、連絡、受診相談のどれが必要か |
文学の言葉と自己効力感を混同しない
文学は研究データではありませんが、「できそう」という感覚と能力そのものが同じではないことを考える助けになります。
- 林芙美子の名言には、仕事や生きる自信を失った時期が記されています。後の歩みを知る私たちは、当時の感覚と、本人が持っていた能力や可能性を分けて読めます。
- 室生犀星の名言で「一人でも本気でいればいい」という見出しのもとに紹介している一節は、結果の保証ではなく、自分の次の一手を他人の評価だけに預けない姿勢として読めます。
- 武者小路実篤の名言の「我が花咲かす」は、万能感ではなく、自分の条件で働ける方向を探す比喩として受け取れます。
これらは自己効力感を実証する証拠ではなく、概念を日常の言葉へ引き寄せる読み方です。
うまくいかないときの見直し方
- 課題が大きすぎる:結果ではなく、開始できる行動へ分ける
- 技能が足りない:練習、教材、指導を増やす
- 手本が遠すぎる:条件の近い人の途中経過を見る
- 励ましが抽象的:できている点と次の改善点を具体化する
- 環境に障害がある:時間、道具、担当、支援制度を調整する
- 心身の負担が強い:休息や専門家への相談を優先する
自己効力感が低いと感じても、それを新しい欠点の名前にしないでください。今の課題に対して、経験や支援がまだ足りないという情報かもしれません。
自己効力感についてよくある質問
自己効力感が高ければ成功しますか?
いいえ。行動を始めたり続けたりする見通しに関わる可能性はありますが、技能、資源、機会、他者の判断、偶然なども結果を左右します。根拠のない高い見積もりは、準備不足につながる場合もあります。
失敗すると自己効力感は下がりますか?
下がることはありますが、失敗の意味づけと状況によります。「能力がない証拠」と決めるのではなく、課題の難しさ、方法、支援、体調を分けて振り返ります。前回と違う一条件を作り、小さな試行から再開します。
子どもや部下には褒めればよいですか?
褒めるだけでは十分ではありません。実際に観察した工夫や進歩を伝え、次に試せる行動、練習機会、必要な助けを一緒に整えます。実力とかけ離れた期待を押しつけないことも大切です。
不安が強く、生活に支障がある場合は?
強い不安、気分の落ち込み、不眠などが続き、仕事・学業・家事・対人関係に支障がある場合は、自己啓発だけで抱え込まず、医療機関や公的な相談窓口などへ相談してください。この記事は診断や治療の代わりではありません。
まとめ
自己効力感とは、特定の状況で、望む結果に必要な行動を自分が実行できるという見通しです。自分全体の価値を表す自己肯定感とも、その行動が結果を生むという結果期待とも異なります。
育てるときは、「信じればできる」と言い聞かせるより、実行可能な課題、達成の記録、近い手本、具体的な助言、心身と環境の調整を重ねます。研究は、自己効力感が成績を一方向に押し上げるという単純な図ではなく、実際の達成が次の見通しを育てる循環も示しています。
まずは「私はできるか」ではなく、「どの状況で、どの一手なら試せるか」と問い直してみてください。
出典・参考文献
- Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191–215. https://doi.org/10.1037/0033-295X.84.2.191
- Sitzmann, T., & Yeo, G. (2013). A Meta-Analytic Investigation of the Within-Person Self-Efficacy Domain: Is Self-Efficacy a Product of Past Performance or a Driver of Future Performance? Personnel Psychology, 66(3), 531–568. https://doi.org/10.1111/peps.12035
- Schwarzer, R., & Luszczynska, A. Self-Efficacy. National Cancer Institute, Division of Cancer Control and Population Sciences. https://cancercontrol.cancer.gov/brp/research/constructs/self-efficacy(現在は更新されていない参考ページ)

