いつもの仲間のミスには「忙しかったのだろう」と考えるのに、別の部署の人の同じミスには「責任感が足りない」と感じる。会議の情報も、悪気なく気心の知れた人にだけ先に伝えてしまう。こうした場面を考える手がかりが、内集団バイアスです。
仲間を大切にする気持ちをなくす必要はありません。ただ、親しさが評価や機会の差に変わっていないかは、別に確かめられます。この記事では、心理学の研究と、日常の判断を見直すための編集上の工夫を分けて紹介します。
内集団バイアスとは
内集団バイアス(ingroup bias/ingroup favoritism)は、自分が所属すると感じる集団の人を、そうでない集団の人より好意的に評価したり、優遇したりする傾向です。「内集団ひいき」「内集団びいき」「身内びいき」とも呼ばれます。
内集団とは「自分たち」と感じる集団、外集団とはその区分では「自分たちの外」にある集団です。外集団という言葉に、敵・劣った人という意味はありません。同じ職場でも、部署を基準にすれば別集団、会社全体を基準にすれば同じ集団になります。
何を好意的に扱うかは、信頼、評価、協力、報酬の配分など、場面によって異なります。協力を扱った研究では、内集団の人により協力する傾向が検討されています(Balliet・Wu・De Dreu, 2014)。ただし、同じ集団の人を選んだという事実だけで、直ちに不公平だとは決められません。必要な技能や責任の違いなど、判断に関係する条件も確認する必要があります。
身近ではどんな形で現れる?
次は概念を理解するための架空の例です。個々の行動の原因を診断するものではありません。
- 職場の評価:古くからいるメンバーの提案には説明を補って理解する一方、新しく加わった人の提案には、説明不足だけを理由に厳しく点をつける。
- 情報や機会の配分:重要な予定や研修の情報を、いつもの仲間内だけで共有する。結果として、ほかの人は参加の機会を逃す。
- SNSの判断:応援する団体の発信はすぐ信じ、対立する団体の発信には、同じ内容でも厳しい証拠を求める。
親しさ、過去の実績、役割上の必要性が合理的な判断材料になる場合もあります。見直したいのは、「所属が違うだけで、同じ行動に違う基準を使っていないか」という点です。
似た心理学用語との違い
| 用語 | 主に注目すること | 例 |
|---|---|---|
| 内集団バイアス | 誰を有利に扱うか | 同程度の提案でも、自分の部署の案を高く評価する |
| 自己奉仕バイアス | 成功や失敗の原因をどう説明するか | 自分の成功は実力、失敗は環境のせいと考える |
| 確証バイアス | どの情報を集め、重視するか | 仲間は優秀だという考えに合う事例だけを見る |
| 根本的な帰属の誤り | 他者の行動を性格と状況のどちらで説明するか | 遅刻の事情を知らず、だらしない人だと決める |
これらは重なることもありますが、同じ概念ではありません。結果の説明については自己奉仕バイアス、証拠の集め方については確証バイアス、相手の事情を見落とす判断については根本的な帰属の誤りの記事でも整理しています。
研究で分かること、言い切れないこと
深い対立がなくても「自分たち」という区分は働く
Tajfelら(1971)は、既存の対立や個人的な利害だけでは説明できないよう条件を整え、集団の分類が報酬配分などに及ぼす影響を実験しました。このように、集団間の関係をできるだけ単純にして調べる方法を最小条件集団パラダイムと呼びます。
論文要旨では、自分の集団を優遇する配分が見られ、実験の一部では自集団の絶対的な利益より集団間の差が重視されたと報告されています。長い対立の歴史がなくても、分類が判断に関わりうることを示す研究です。ただし、限られた実験条件での結果から、現実の差別がすべて同じ理由で起こる、誰もが必ず身内びいきをする、と結論づけることはできません(Tajfelら, 1971。ここでは要旨で確認できた範囲を紹介)。
仲間への協力と、外の人への敵意は同じではない
Ballietら(2014)は、協力に関する212研究を収集したメタ分析を行いました。メタ分析とは、複数の研究結果をまとめて傾向を検討する方法です。内集団と外集団への協力を直接比べた分析は、そのうち168研究に基づいています。
自分たちへの協力が優先される傾向はありましたが、相手との相互依存がある課題かどうかで結果は異なりました。論文は、集団への帰属だけでなく、仲間から協力が返ってくるという期待も説明の手がかりとして検討しています。また、協力課題での結果は、外集団を積極的に害することより、内集団に利益を与えることの重要性を示していました(Ballietら, 2014)。
これは「外集団への敵意は存在しない」という意味ではありません。また、誰かに利益を多く渡すだけでも、限られた機会を配る場面では、ほかの人が不利になることがあります。「悪意はなかった」と「結果が公平だった」は、分けて考える必要があります。
交流は有望でも、会わせれば必ず解決するわけではない
PettigrewとTropp(2006)は、515研究・713の独立したサンプルをまとめ、集団間の接触が偏見の低さと結びつく全体的な傾向を報告しました。ただし、さまざまな研究方法を含む結果を、そのまま一つの交流企画の因果的な効果とはみなせません(研究要旨)。
Paluckら(2019、オンライン公開2018)は、参加者の割り付けを無作為に行い、接触から時間を置いて結果を測った27研究を再検討しています。全体として接触の有望さを支持しつつ、効果の違いや、当時の研究で十分に検証されていない対象を指摘しました(Paluckらの再検討)。
これらが主に扱うのは偏見であり、職場の昇進や資源配分が公平になることと同じ指標ではありません。「一緒に食事をすれば解決」と単純化せず、発言しやすさ、役割、評価制度も別に整える視点が必要です。
仲間を大切にしながら、公平さを確かめる5つの工夫
以下は、研究上の区別を参考にした日常向けの編集上の実践例です。この5項目を一組として効果検証した治療手順や、バイアスを確実に消す方法ではありません。取り組みやすい一つから試し、結果を確かめてください。
1.人の名前を見る前に、基準を言葉にする
提案を選ぶなら「目的に合うか」「実行できるか」「必要な資源はどれくらいか」など、共通して確かめる項目を先に決めます。「いつもの人だから安心」を使う場合も、その安心を支える実績は何かを具体化します。基準自体が特定の集団だけに有利になっていないかも点検しましょう。
2.所属だけを入れ替えてみる
「これが別部署の人の提案でも、同じ点をつけるだろうか」と問い直します。たとえば締切に遅れた人を評価するなら、遅れの長さ、事前の連絡、周囲への影響を両者で同じように確認します。事情の違いを無視して全員を機械的に同じに扱う、という意味ではありません。
3.気持ちだけでなく、機会の配り方を見る
「誰も嫌っていない」で終わらず、誰に相談したか、誰を会議に呼んだか、誰が資料を受け取れたかを振り返ります。仲のよい人への声かけを禁じるのではなく、参加や応募に必要な情報を共有の場所にも置く、といった変更が考えられます。
4.重要な判断には、別の視点を加える
採用や表彰など、影響が大きい判断では、評価の理由を記録し、関係の薄い人にも同じ資料を見てもらいます。友人や以前の同僚が対象なら、関係を明らかにすることも大切です。人数を増やすだけで公平になるわけではないため、全員が同じ思い込みを共有していないかにも注意します。
5.無理のない共通作業から、相手を知る
安全に関われる環境なら、部署を越えて小さな改善案を一緒に考えるなど、具体的な協力の機会を作れます。発言を一部の人が独占しないことや、参加を強制しないことにも配慮します。これは上記の接触研究をそのまま再現するものではなく、効果を保証する実践でもありません。
嫌がらせや明確な差別がある場合は、被害を受けている人に「もっと交流して」と負担を戻さないでください。安全の確保、相談先の確保、制度上の対応が先になる場合があります。
文学との接点――友情と公正を別々に考える
山本有三の言葉を紹介する記事には、「友情と公正を分ける」という節があります。親しい人を思うことと、公的な判断で同じ基準を使うことを分ける視点は、この記事のテーマにもつながります。
ただし、文学的・倫理的な考察は心理学の実験結果ではありません。人とのつながりをどう大事にしたいかを考える言葉として読み、行動の傾向を検討する研究とは役割を区別すると、双方を生かしやすくなります。
自分が「外の人」として扱われてつらいとき
情報を渡されない、発言の機会がない、同じ行動なのに評価が違うと感じるときは、「自分が敏感すぎるだけ」と片づける必要はありません。一方で、相手の心の中をバイアスという言葉だけで断定することも難しいものです。
日時、具体的な行動、自分への影響、確認できる記録を分けて整理し、信頼できる人や職場・学校の相談窓口に相談する方法があります。眠れない、仕事や学業に取り組めないなど生活への支障が続く場合は、心理職や医療機関への相談も選択肢です。この記事は診断や治療の代わりではありません。
まとめ
内集団バイアスは、「自分たち」に属する人を有利に扱う傾向です。仲間への協力と外の人への敵意は同一ではありませんが、悪意のない優遇も機会の差につながることがあります。
まずは一つの判断について、「所属が逆でも同じ基準を使うか」「情報や機会は必要な人に届いているか」を確認してみてください。仲間とのつながりを保ちながら、その外にいる人にも説明できる判断を目指すことはできます。
アイキャッチ写真:CoWomen / Unsplash。写真は対話のイメージであり、写っている人の心理的傾向を示すものではありません。
参考文献
- Tajfel, H., Billig, M. G., Bundy, R. P., & Flament, C. (1971). Social categorization and intergroup behaviour. European Journal of Social Psychology, 1(2), 149–178. https://doi.org/10.1002/ejsp.2420010202(要旨を確認)
- Balliet, D., Wu, J., & De Dreu, C. K. W. (2014). Ingroup favoritism in cooperation: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 140(6), 1556–1581. https://doi.org/10.1037/a0037737(著者研究室公開稿を確認)
- Pettigrew, T. F., & Tropp, L. R. (2006). A meta-analytic test of intergroup contact theory. Journal of Personality and Social Psychology, 90(5), 751–783. https://doi.org/10.1037/0022-3514.90.5.751(要旨を確認)
- Paluck, E. L., Green, S. A., & Green, D. P. (2019; online 2018). The contact hypothesis re-evaluated. Behavioural Public Policy, 3(2), 129–158. https://doi.org/10.1017/bpp.2018.25(出版社公開本文を確認)

